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2007年2月22日 (木)

読めないはなし

先頃、漢字に関する話題を書いたところ、検索エンジンで法律用語や特許明細書独特の表現の読み方を検索される方が案外多いことが分かった。法律用語は明治の時代を引きずっているものも多くて、コムズカシイ表現の漢語も散見されるし、特許明細書の表現もまた、過去の時代を引きずって、外見として理解はできるが、国語辞典を見ても掲載のない漢語がいまでも時折見かけられる。

▽ 法律も新しくなると見直されるし、特許明細書の表現については、いくつかの判例を経て利用が控えられているケースが多いが、それでも根強く残っている部分もある。そういう単語でも読みが分からないと困るというのは当然のことだろう。

■見直される法律用語
 分かりにくい法律表現については、近年の改正による口語化でだいぶん消えつつある。例えば民法で一度見ると忘れられない「囲繞地通行権(いにょうち−)」(民法210条)は、いまでは「公道に至るための他の土地の通行権」となっている。また刑法であった「贓物罪(ぞうぶつ−)」(刑法256条)は、いまでは「盗品譲受け等」となっている。
 知財法関係では、意匠法にある「組物」(意匠法8条)の読みがある。読めると考えられているのか、見直される様子はない。「ソブツ」と読む人があるが、これは「クミモノ」と読むのが一般的であると思う。

 このほか「懈怠」(けたい)、「徒過」(とか)などは難読に属する法律用語かも知れない。

■使い分け意味不明
 読みは見当がついても意味の見当が難しい単語もある。
 平成15年改正前の特許法66条5項には「縦覧」(じゅうらん)という単語があった。この語と「閲覧」との相違というのは一見してわかるというものではない。「縦覧」は無料で見せること、「閲覧」は有料で見せることである。役所の手続きなどでは未だに使い分けがされる例もあるので、今でも多少の参考にはなるだろう。

 この種の使い分けとして有名どころでは、「推定する」と「みなす」の違いというのもある。これらの相違はこうだ。「Aと推定する」とあれば、「Aでない」ことを立証できれば「Aでない」と判断されるのに対して、「Aとみなす」とあると、「Aでない」と主張しても意味がない。こういう「みなし」を「擬制(ぎせい)」ともいう。この擬制という単語は例えば、公知であるとみなす、という場合に「公知と擬制する」というようにサ変動詞で使うことが多いように思う。

 もっと基礎的なことで言い始めると、「又は」と「若しくは」の使い分けというのもある。日常用語としてはどちらも「or」の意味であるが、法律になると、単に並列並記できる場合には「又は」を使って連結していく。
 料理のコースで「メインディッシュは肉または魚」とあるようなものである。一方、さらにメインディッシュではなく「定食」が用意されている場合、「肉若しくは魚のメインディッシュ、又は定食」というように、小さい括りに「若しくは」を使い、大きい括りに「又は」を使う。

 特許法2条3項1号で、「物の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」とあれば、生産、使用、譲渡等、輸出入、譲渡の申出をする行為を大きい「又は」で連結していて、「輸出入」について「輸出若しくは輸入」というように小さい連結を使っているワケである。

 バカバカシイ使い分けのようだが、こんなのはたくさんある。同種のものに、「及び」、「並びに」の使い分けがある。このほか、「準用」(じゅんよう)と「適用」、「権限」と「権原」(けんげん)、「遅滞なく」(ちたい−)と「すみやかに」、「その他」と「その他の」などがある。
 念のため「権限」と「権原」についてだけ補足的に説明しておくと、「権限」は、ある者の行為が有効になる限度というような意味で、パワー(Power)のことである。一方で「権原」は、法律上の行為等が有効になる根拠となる権利など、法上の原因を指す。
 従って、例えば、通常実施権者は、通常実施権を有しているという意味で、実施の「権原」を有しているのであり、それは「権限」とは何の関係もない。
 一方で、代理人の権限は委任状(Power of Attorney)などで制限されている。また、手続きの受継申立をするときには、受継ぐにあたっての能力を証する書面(「手続を受継する者の権限又は資格を証明する書面」:特許法施行規則11条の5第2項)を添付しなければならない。

 こうした単語の相違については、例えば「図解による法律用語辞典」の欄外の解説が網羅的で、短く説明されており、秀逸だと思う。ある程度まとまって勉強したいのであれば、「最新 法令の読解法―やさしい法令の読み方」や弁理士試験でよく使われる「理系のための法学入門―知的財産法を理解するために」がある。法律の学習前に一読しておくと、法律の読みやすさが断然違うと思う。

■明細書独特の表現の読みと意味
 法律用語に比べると、こちらのほうは、司法関係者(要するに裁判所)からは一蹴されちゃうことが多い(個人的には法律専門用語だって一蹴したいよ)し、勝手な造語もあるので、読みが必ずしも一定していないこともある。しかし、良く見る「摺動」(しゅうどう)などは、ある程度コンセンサスができている。

 なお、この「摺動」の意味は、ふつうに考えると、例えばキーとキー溝と(引き戸と溝でもいい)の関係のように、一定の接触状態を維持しながら相対運動するようなイメージではないかと思う。その意味では玉が樋を転がる様子は「摺動する」とは言い難い。接触部分が固定的でないからだ。

 似たような単語で意味を異ならせて読むとする場合があるのも困りものである。例えば「回動」(かいどう)と、「回転」(かいてん)とは、違うというのがある。この説(?)では、「回動」というのは、回転可能範囲が制限されている場合をいうという。従って、ハードディスクの磁気ヘッドアームは、回動はするが、回転はしない。という。またこの説では、ふつうの時計の針は回転はするが回動はしないことになる。

 屁理屈にちかい

という気もする。私などはこういう単語は原則として避けて、「規制された角度範囲で回転」とか、別表現を模索したい。

 大概の特許独特の表現には言い換えが利く。例えば「立設」(りっせつ)は、何かを垂直に設ける意味であって、放熱フィンなど曲がりやすい場合は「立設」とは言い難い、という話がある。「複数のフィンがほぼ垂直に立てられている」とでも書いておけば済む。ちなみに知人は「(ベースに)生えている」という表現を提案してきたが、こういうのは、あんまりだと思うなぁ。

 また「載置」(さいち)された物は、何かの上に固定されている態をいうんだと言われる。これでは積み木のように可動な状態で置かれるものは「載置」されていないことになる。こういう漢語は何のことはない、「載せ置く」とでも書き下しておけばいいのだ。

 こういう「明細書独特表現」は、弁理士登録時に配付される「基本テキスト」にまとまって掲載されている。この文は現・知財協の雑誌に掲載されたもので、かなり古いものである。書籍としては「特許技術用語集―類語索引・使用例付」などもある。個人的には、意味を説明するだけでなく、現代的に、辞書に記載のある語を使った代替表現が併せて掲載されているものがあるといいと思うのだが…。

 明細書では基本的に、辞書に掲載のない単語を避けるべきである。誰もが簡便に分からないと、権利範囲の画定に問題が生じるのだ。しかし、こういう場合に基準となる辞書が大概「広辞苑」なのはどういうわけなのか。おもしろいものである。そういえばフィネガンズ・ウェイクの翻訳で知られる柳瀬尚紀氏の「広辞苑を読む」という本があって、以前おもしろく読んだ記憶がある。もうひとつそういえば、広辞苑の著者は「新村出」と書いてある。こちらは「しんむら・いずる」と読む。

□法律用語関係3冊

先に、こういう本を見て法律独特の語に慣れておくと、後が断然違う。

□特許関係語関係1冊

□広辞苑関係

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コメント

大変参考になりました。ありがとうございます。

投稿: 城山 昇 | 2010年7月 5日 (月) 13時53分

古くさいとか死語などと一部に批判されている特殊な特許用語は、特許明細書の英文和訳を行なっていると、長い訳になりがちな部分を1語で表現できて、結構便利なことが多いというのが実感です。
とはいえ、使い方が間違っていないか、確認するのに時間がかかってしまうので、一長一短というところですね。

投稿: | 2010年12月 7日 (火) 22時29分

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