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2007年2月16日 (金)

[弁理士試験]商標法案内(1)

紙おむつの特許侵害訴訟が地裁で行われていたようで、この15日に、判決が出たようだ。ニュースによると2億9700万円の請求に対して1億100万円を認容というから、原告側にとってはまずまずの結果だと思われる。被告側は控訴の方向のようなので、まだ続きがありそうだが。

▽ さて、前回まで長期に亘り「特許法案内」と称して、特許法の諸規定の構造分析法について説明をしてきました。特許法の規定のうち、比較的分かりやすいものを取り挙げて、整理の方法や、基本書との関わりあいといったところを説明してきたつもりです。しかしながら、弁理士試験は特許法ばかりではありません。今回からはちょっと違う法域のことを扱ってみましょう。

■まずは商標法
 特許法と並んで、弁理士試験における法律の大きな柱の一つが商標法です。と、いいますのも、実用新案法や意匠法といったものが、特許法と同じように創作された物の保護・利用を図る法律体系(創作法とでも言いましょう)であるのに対して、商標法が扱う「商標」は、技術的な観点から創作されたものではなく、任意に選択されたものであるわけです。従って商標法の目的は、特許法などとは大きく異なり、「競業秩序の維持」などとなります。そしてその保護対象は、なんといっても商標(ブランド)に対する需要者の信用(商標に化体した信用)ということになります。こういうことから商標法は、いわば「競業法」とでもいうことになりましょう。

□1条
 この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。

■最良のテキスト
 商標法の最良の基本書は、なんといっても「青本(工業所有権法逐条解説)」です。この本、度重なる改正にまったく追従しておらず、改正本で手当てする必要があります。しかし、それでも商標の基本書としての機能を全く失っているわけでもないでしょう。
 網野先生の「商標」を基本書としている受験機関も多いと思いますが、網野先生のこの本は、吉藤「特許法概説」とはちがって、全体をまんべんなく読む必要はないと思います。むしろ、辞書的に使うというのが一般的ではないかと思います。
 仮に全体像を通して読める本を、ということであれば、例えば私なら、小野昌延先生の「商標法概説」をお勧めします。もっとも、こちらも必読かといわれると、そうでもない気がします。
 また、判例関係においては、例えば「商標の法律相談」という本を以前からお勧めしていますが、こちらも必読か、といわれると、そうでもないかなぁと答えたくなります。

■巧妙な定義
 さて、条文に戻りましょう。商標法でまずおもしろいのは、法上の商標の定義です。
 商標法では、まず「標章」というものを定義します。

□2条1項(柱書き)
 この法律で「商標」とは、文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう

 つまり、「標章」というのは、文字、図形、記号、立体的形状、それらの組み合わせ、さらにそれらに色彩を付したもの、ということで、つまりは商標の構成要素である「マーク」を「標章」と呼びます。これに対して商標というのは、標章のサブセットという構成になっています。ベン図でいえば、商標の集合を表す円は、標章という集合を表す円に含まれてしまっています。
 さて、では商標とは、標章のうち、どんなものをいうかというと、

□2条1項
 この法律で「商標」とは、文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一  業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二  業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)

 参照の便利のために、柱書きを繰り返して含めました。要するに商標とは、標章のうち、商品や役務について使用するものをいう、ということです。さきほど、商標の構成要素、という言い方をしましたが、商標というのは、マークだけで成り立つのではなく、「商品、役務」もまた商標の構成要素の一つであるわけです。

■「商品・役務」とマークとででき上がる「商標」
 このために、商標法を参照していくとき、あるいは商標法の学習を進めるにあたって、商標というのがちょうど2成分のベクトルであるかのように扱っていく必要があります。マーク成分と、「商品・役務」成分と、です。一般消費者の立場からして、マークにばかり目がいきますが、「商品・役務」も常に念頭に置くように心がけて下さい。
 例えば、こんな条文があります。

□4条1項1号
 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
一  国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一又は類似の商標

 この4条1項1号には、マークのことしか書かれていません。「商品・役務」について書かれておりません。

「なぁにが商品・役務も念頭に、だ」

と思わないでください。書いていないということは… 商品・役務がどうであっても、適用するぞ という意味になってきます。一方、同じ4条1項でも、

□4条1項10号
 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

のように、「商品・役務」を絞って適用する条文もあります。こうして「商品・役務」について着目していくと、

  •  タイプI   指定された商品・指定された役務ズバリそのもの
  •  タイプII  指定された商品・指定された役務に似ているもの(類似)
  •  タイプIII 指定された商品・指定された役務に似ていないもの
  •  タイプIV  指定された商品・指定された役務に関わらないもの

のだいたい4通りがあることが見えてきます。そうすると、例えば、

□51条1項
 商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。

のような面倒くさそうな規定で、「商標権者が何をしたって?」と分からなくなることがありません。ここでは、
 (1)タイプI でマークが似たもの、(2)タイプIIでマークが同じか、似ているもの、のいずれかを使用して、故意に、商品や役務の質を誤認させたり、他人の業務の商品・役務と混同させた
ということになります。

 なお、タイプIIIは、防護標章登録というところで現れます(64条の「登録商標に係る指定商品及びこれに類似する商品以外の商品又は指定商品に類似する役務以外の役務」という部分)。

 さて次回は、ちょっとばかり「法上の商標」というところに的を絞ってみましょう。このあたりが分かり始めると、商標法が読みやすくなると思うのです。

□青本

□改正本:たとえば、

ただ、この本を始め、改正本のPDFファイルは、特許庁からダウンロード可能

□網野「商標」(最新版は、この、2002年の第6版)

□小野「商標法概説」

□商標の法律相談

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