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2007年2月19日 (月)

分けるにも頭を使うはなし

特許出願のほとんどには、請求項というのが2つ以上含まれている。と、いうことは一つの出願の中に複数の発明を含めてもいい、というわけだ。かといって、タイヤの発明とハンドルの発明を一つに含めて安上がり、というわけにはいかないのは、一件に含めることのできる発明の範囲が限定されているからで、これを「単一性」の要件と呼んでいる。

▽ 単一性がないと言われてしまったりしたときに、複数ある発明の一部を分けて、別の出願にする手続が「分割出願」と呼ばれる…といいたいところだが、この定義はちょっとずれている。

■分割出願のつかいかた
 分割出願の規定(44条−後で掲げる)をみると、「二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる」というような書き方になっている。
 そこで、原出願そのままというのは「分割」にならないとしても、一部のクレイムが拒絶されたときに、その拒絶された一部クレイムを「切り取って」分割出願にすることはあるし、そもそもクレイムされていなくても、明細書に書かれていればそれを「分割」して、クレイムに挙げることもある。
 そこで「逐条解説」にあって初心者受験生を悩ませる記述−「(分割出願に)新規事項が入ってくることがある」−が、意味をもってくる。別に出願当初クレイムを「分割」しているんじゃなくて、出願に入ってる発明を分離して別の出願にするから「分割」なだけで、請求項の2から4を分けました、という意味ではないんだ。従って新しい要素だって入り込む余地がある。

 例えば凄い例として、「2画面携帯電話特許」というのが以前話題になった。こちら、ベースとなるのは特願平4−298630号という出願で、ペン入力型のコンピュータで、タッチスクリーンに書いた内容を無線でFAX送信できるようにした、という装置である。往年の Newton を思い出しちゃうのは Apple 製品ユーザの哀しい性だが、それはどうでもいい。問題は、これの分割出願である。

 一つの分割出願は、特願平7−309275号、これからさらに特願平10−180964号という分割出願が行われている。その間に出願人が変わっていたりするのだが、それも置いておいて、結構すごいのがクレイムである。

 特願平10−180964号のクレイムは、出願当初、平成4年の出願と殆ど変わらない。

□【請求項1】 公衆通信回線に無線によって接続され、該公衆通信回線を経由して発信、または受信を行う無線通信手段と、該無線通信手段に対する制御指令の出力、上記無線通信手段を経由して上記公衆通信回線からデータを入力、または上記無線通信手段を経由して上記公衆通信回線にデータを送出するペン入力コンピュータと、上記無線通信手段と上記ペン入力コンピュータとを組み合わせた状態で保持する筺体とを備える携帯型コミュニケータ。

それが、特許クレイムになると、こうなる(読みやすいように要素別に改行しました)。

□【請求項1】  公衆通信回線に無線によって接続され、該公衆通信回線を経由して発信、または受信を行う無線通信手段と、
 該無線通信手段に対する制御指令の出力、上記無線通信手段を経由して上記公衆通信回線からデータを入力、または上記無線通信手段を経由して上記公衆通信回線にデータを送出する処理を行うコンピュータと、
 該コンピュータによって所定の画像を表示する第1のディスプレイと、
 第2のディスプレイと、
 オン信号を出力するオンスイッチが操作された場合に上記第1のディスプレイと、上記コンピュータを含む全体に電源を供給して、該第1のディスプレイを利用した入出力が行われるアクティブ状態にし、オフ信号を出力するオフスイッチが操作された場合に、上記コンピュータと、上記無線通信手段とを含む所定の部分にのみ電源を供給して、上記第1のディスプレイを利用した入出力が行われることのない待機状態にする電源コントローラと、
 上記無線通信手段と、上記コンピュータと、上記第1のディスプレイと、上記第2のディスプレイとを組み合わせた状態で保持する筺体と
 を備え、
 上記コンピュータは、上記オンスイッチと、上記オフスイッチの操作状態に拘わりなく、上記無線通信手段が受信を待機している受信待機中であるかを判断する受信待機中判断手段と、該受信待機中判断手段が受信待機中であると判断した場合に、上記第2のディスプレイに受信待機中の表示を行う受信待機中表示手段とを備えることを特徴とする携帯型コミュニケータ。

 特徴事項を、2画面備えている点と、電源供給を制御したり、受信待機中表示をしたりという点とにシフトさせている。もっともこれはかなり極端な例である。
 なお、権利者は、これを以て携帯電話機メーカー等に権利行使をしたようだが、いつぞや権利行使に失敗したというようなニュースを見た。もとの明細書が明細書なので、クレイム自体の解釈(例えば「受信待機中表示」などの解釈)にも限度があってという話じゃないかと憶測するが、いずれにしても、こんなにまでクレイムを変えてしまっても、「分割」は「分割」なのだ。

■改正
 この分割出願、こんかいの改正で、できる時期が変更になった。

□第44条(第1項) 特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
一 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる期間内にするとき。
二 特許をすべき旨の査定(第百六十三条第三項において準用する第五十一条の規定による特許をすべき旨の査定及び第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。
三 拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。

 かんたんに言えば、補正可能期間中に加えて、特許査定後と、拒絶査定の最初の謄本(単に「拒絶査定時」でないので注意)送達後に可能ということになる。いままで補正期間と同じだったのが変わったわけで、受験生の方々は、ご注意頂きたい。

 また、アメリカでいう、First Action Final みたいな制度も導入された。

□第50条の2 審査官は、前条の規定により特許出願について拒絶の理由を通知しようとする場合において、当該拒絶の理由が、他の特許出願(当該特許出願と当該他の特許出願の少なくともいずれか一方に第四十四条第二項の規定が適用されたことにより当該特許出願と同時にされたこととなつているものに限る。)についての前条(第百五十九条第二項(第百七十四条第一項において準用する場合を含む。)及び第百六十三条第二項において準用する場合を含む。)の規定による通知(当該特許出願についての出願審査の請求前に当該特許出願の出願人がその内容を知り得る状態になかつたものを除く。)に係る拒絶の理由と同一であるときは、その旨を併せて通知しなければならない。

 要するに分割前クレイムの拒絶理由がそのまま使えるときは、そのまま使うというような趣旨である。しかもそれは最後の拒絶理由になる(補正に制限がかかる)。この規定の是非については、いろいろな観点からあまり否定的に言えないのだけど、分割出願の乱発は難しくなるだろう。中間処理であまり考えずに分割出願を勧める代理人がある(それはそれで戦略なんだろうけど)ようだが、今後はちょっと考えものである。

 それで、というか、ある受験生の方は、

「今後は拒絶に対する対応を書くときは、ただ、『分割出願すればよい』では済まないらしい」

と嘆いておられた。それは問題文にもよるとも思うけど、無反省に記述すると、つっかかってくる採点者もいるかも知れないから、気を使うようになるのは確かに負担ではあろう。

■と、いうことで今後は実務的にも分割出願のときにはちょっと考慮を要するようになるだろう。
 日本版CIP(continuous in-part)の導入も考慮されているという噂もあり、分割関係は今後も法改正を見守る必要がありそうである。

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