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2007年1月19日 (金)

[弁理士試験]特許法案内(20)

アメリカの数学者、D.E.Knuth は、TeX という(主に数式を含んだ)論文作成に便利な組み版ソフトウエアを作成したことでも知られている。この Knuth 自身が著した TeX の解説書「TeX Book」は、読者が何度も読み直すことを前提として、ある工夫が施されている。それは、最初に読むときには読み飛ばして下さい、という記号(ウィザード用記号)があることである。道路標識の「つづら折りあり」の標識のようにくねった線の記号である。この記号が2つ続けてついているところもある。そこは、十分経験を積んでから読んで下さい、という趣旨だ。

▽ この「特許法案内」も20回となって、特許法の要所要所をつまみ食いしてきたが、これが終わったら、もうすこし突っ込んだ特許法案内<つづら折りあり>をやってみようかしら。

■PCTから国内出願へ
 さて今回は184条の3以下の話であります。
 前回、すでに184条の3は、「PCTで出願されたものも日本が指定されていたら日本の出願とみなすぞ」と高らかに宣言する規定だとご紹介しました。

 と、ここで唐突に思い出したので初心者向けに書いてしまいますが、法律用語の「みなす」、「推定する」の区別、ついてますか。

 法律用語で「みなす」と書かれると、それは、「そのように扱うことにしました」という宣言になります。宣言なので、「ちょっとまて」といってももう遅いです。つまり反論できません(してもムダです)。一方、「推定する」という場合は、「そのように扱おうと思います」という程度のことなので、「いや、待て。それは違う」という反論の余地があります。

 特許法の例でいいますと、例えば42条。

□第42条(本文) 前条第1項の規定による優先権の主張の基礎とされた先の出願は、その出願の日から1年3月を経過した時に取り下げたものとみなす。

とありますから、「取下げられたと扱うことにしました」ということで、「いやです。取下げてません」と主張してもムダです。

一方、例えば104条

□第104条 物を生産する方法の発明について特許がされている場合において、その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは、その物と同一の物は、その方法により生産したものと推定する。

とありますが、「違う方法で生産しました。ホラ、この通り…」と反証をすれば、推定は覆ります。

一次試験の中には、「推定する」と「みなす」をうまく入れ替えた枝が出題される場合がありますから、反証可能なものかどうか、よく注意しておきましょう。例えば、

□例題 正しいのはどちらか。
 1.他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものとみなす。
 2.審判官は、中断した審判の手続を受け継ぐべき者が受継を怠つたときに受継を命じたにも関わらず、指定した期間内に受継がないときは、その期間の経過の日に受継があつたものとみなすことができる。

 答えは…特許法104条と、23条1項、2項とを参照して下さい。

■国内移行手続
 特許協力条約(PCT)では、指定官庁への移行手続が行われるまでの段階を、「国際段階(International Phase)」と呼んでいます。指定官庁への移行手続が行われると、「国内段階(National Phase)」へ移行します。日本国特許庁でのこの移行手続を定めるのが、184条の4と、184条の5です。
 まず184条の5をみてみましょう。

□第184条の5(第1項) 国際特許出願の出願人は、国内書面提出期間内に、次に掲げる事項を記載した書面を特許庁長官に提出しなければならない。
1.出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
2.発明者の氏名及び住所又は居所
3.国際出願番号その他の経済産業省令で定める事項

この、184条の5第1項で提出を求められる書面を、ここでは仮に国内移行書面と呼んでおきましょう。この国内移行書面は、PCT出願が日本語でされていようと(日本語特許出願)、外国語でされていようと(外国語特許出願)、提出しなければなりません。これを提出しないと、PCT出願が国内段階へ移行しません。「国内書面提出期間内」に提出されない場合は、取下げられたのと同じことになります(184条の4第3項、PCT24条(1)を参照)。

 また外国語特許出願の場合は、これに加えて日本語の翻訳文を提出してもらわないといけません。我が国では特許出願は日本語でされなければならない(日本語主義)からです。

■期限を定めるための各種用語
 さて、184の規定が読み解きにくいとされる理由の一つは、期限を定めるための用語が耳慣れない、というものではないでしょうか。

 既に、184条の5において、「国内書面提出期間」という語が現れました。この語は、184条の4に定義がありますが、その定義たるや、

□184条の4(第1項)抜粋 …条約第2条(xi)の優先日(以下「優先日」という。)から2年6月(以下「国内書面提出期間」という。)…

というものです。また新たに「優先日」という語がでています。しかもそれは条約2条に規定があるといいます。面倒ですが、条約2条を当たってみます。

□PCT2条(xi) 「優先日」とは,期間の計算上,次の日をいう。
(a) 国際出願が第8条の規定による優先権の主張を伴う場合には,その優先権の主張の基礎となる出願の日
(b) 国際出願が第8条の規定による2以上の優先権の主張を伴う場合には,それらの優先権の主張の基礎となる出願のうち最先のものの日
(c) 国際出願が第8条の規定による優先権の主張を伴わない場合には,その出願の国際出願日

うーむ。なんじゃこりゃ。…と諦めてはいけません。そんなに難しくありません。8条というのは優先権主張の話ですから、この規定は、

(a)では、PCT出願が他の出願を基礎にする優先権を伴うとき
(b)では、その基礎出願が複数あるとき
(c)では、優先権主張をしていないとき

を定めているだけです。
 簡単に言って、(a),(b)によると、「優先日」とは、最先にされた基礎出願の出願日です。また(c)によると、優先権主張をしていなければ、PCT出願のその日です。言葉の上ではともかく、概念的には大変明瞭ではないでしょうか。

「国内書面提出期間」は、この優先日から30月(2年6月)後、というわけです。実務家であればいつも気にしているはずの期限です。

 このほか、この条文には、「翻訳文提出特例期間」と、「国内処理基準時」というのがあります。これらも簡単な話で、

「翻訳文提出特例期間」は、国内移行書面提出から2月、
「国内処理基準時」は、基本的には国内書面提出期間と同じ。ただしそれより前に審査請求をすれば、その審査請求の時、

ということです。

■むむう、今日は、この辺りまでかなぁ。次回からはもう少しペースアップしたいですね。
 あ、そうそう一つ宿題を。さっき、我が国の特許出願は日本語主義といいましたが、その根拠となる条文はどこにあるでしょう。おわかりでしょうか。解答は、来週あたりにでも(忘れなければ)。

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