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2007年1月12日 (金)

[弁理士試験]特許法案内(19)

特許法案内…のまえに、今回は少々長い前置きを。

■あたらしめの本のご紹介
本年度の委員会もあと2回となった。いろいろあったが、活動成果については、冊子にまとめられる予定になっている。
委員会が終わり、弁理士会館を出ると、身を切るような寒さだった。と、いうより弁理士会館内がやけに暖かだった。目の前の霞が関ビルを突っ切るように抜け、近くの書店、「書原」へ向かう。
2007年1月1,15日合併号の「ジュリスト」(amazon って雑誌の取り扱いなかったんだっけ…orz)が、「知的財産権法の新展開」という特集になってい、他の委員の方がお持ちだったのを見かけ、おもしろそうだと思ったのだ。まぁ、この特集については、弁理士試験に関わる内容からは少々遠いと思われる。

「書原」では、特許庁近くの土地柄を意識してか、知財関係の書籍が充実している。特に新刊のものについての取り扱いが豊富である。そんな中で目を惹いたものを取りあえず何点かご紹介だけ。

…中国については、これからの市場の一つで、近年出願件数も伸びているし、現地もかなり整備されてきた印象があるが、弁理士業界全体を見てもあまり充分な情報が提供されているともいえなかった。ごく最近になっていくつか良書が散見されるようになった印象がある。そういうものの中でも容量膨大で、とりあえず辞書的には使えそうなのが、こちら:

また、おなじ出版社では、中国での侵害訴訟についての書籍も出している:「中国特許侵害訴訟の実務

侵害訴訟といえば、こんな本があった:

著者の竹中先生は、アメリカ特許法とその手続―英和対訳などの著書で日本でも知られるチザム教授門下の方である。そのせいか、この本の大部分は米国についてのことになっている。もっとも、いちおう欧州その他についての記載もある。書店店頭でのナナメ読みではITCなどのことまで網羅されているようで、米国についてはかなり十分な情報が含められているとみた。

その他「書原」で見たものの中には、デューデリジェンス(DD)に関するものなど。DDにからむ特許関係の評価というのも、ごく稀に依頼があったりする。一応、業務の一部なんである(そのうちDD関係の本もご紹介します)。

▽ そういえば、「産業財産権法の解説」の新しいのが出ているのだが、まだアマゾンでは販売されていない模様。この本は弁理士試験に必要なんだけどな。

■試験制度のこと
さて、特許法案内。前回までで取りあえず実施権関係の部分を終わりにして、次はどうしようと思っていたわけです。シフト補正や50条の2など改正事項についても審査基準案が整ってきておりますし、明細書の記載要領についても今後、大規模な改正が見えてきて、そっちの解説はどうかと思っておりました。

そこへ今後の試験制度では、論文でも、条約に関わる問題を問うようにしたい方向(「条約」という科目を設けずとも)と耳にしました。この情報は未確定ですから、いまから神経質になることもないとは思いますが、そういうことなら184条の3以下の法文をご紹介しておこうかなと。

シフト補正等、今回の改正事項については、来週あたり実務的側面で記事にする予定です。記載要領のことは方式的な側面なので、これも試験関係の記事からは切り離して、いずれ。

■「イヤヨ」
この条文群は、184条のXXという条文番号にちなんで、昔から「イヤヨ」などと言われてきました。それだけ素人目には複雑怪奇に見えるということなのかも知れません。たしかに、条約との関係を整理しないと、初学者にとってはハードルが高いものなのかも知れません。そこで184条のXXに入るまえに、PCT(特許協力条約)について、ごく簡単に概観しておきましょう。おそらく今日の「特許法案内」は、それだけで終わってしまうかと思いますが、無駄ではないでしょう。

■PCTのこと
PCTは、パリ条約19条にいう特別取極の一つです。1つの出願で、多数国への出願日を確保する、というのがそのおおまかな実体で、その意味からPCT出願は「各国出願の束」と呼ばれ、またPCT自体は、「方式統一条約」と言われます。「方式統一」ですから、実体的な規定はほとんど(ごく一部に例外はありますが)ありません。

PCTは従って、手続的な規定が配列されているだけと言っても過言でないと思われます。もっとも、初学者のPCT学習を妨げているのは、規則を含む膨大な規定の量ではないでしょうか。

まぁ論文的には第一章と第二章とを攻略すればいいので、実際に勉強するべき量はぱっと見ほど多くもないのですが。

その第一章は、誰もが通る手続を規定しています。第二章は、「国際予備審査」を請求した場合に通る手続を規定しています。ところでこの第二章、条文目次を見てみますと…

□第二章(抜粋) 国際予備審査
第32条 国際予備審査機関、 第33条 国際予備審査、 第34条 国際予備審査機関における手続、 第35条 国際予備審査報告、 第36条 国際予備審査報告の送付,翻訳及び送達、 第37条 国際予備審査の請求又は選択の取下げ、 第38条 国際予備審査の秘密保持

となっています。一方、第一章の国際調査に関わる条文目次を見ますと…

□第一章(抜粋)
第15条 国際調査、 第16条 国際調査機関、 第17条 国際調査機関における手続、 第18条 国際調査報告、 第19条 国際事務局に提出する請求の範囲の補正書、 第20条 指定官庁への送達、…(中略)…、第30条 国際出願の秘密保持

そうです。第一章の国際調査の規定の繰り返しのようになっている部分が多数あるのです。もっとも具体的な手続は細かいところで相違しますので、相違点を押さえる必要はありますが、構造としてはパラレルと考えて頂いてよいかと思います。

こうしてみますと、長大に見えるPCTも、効率良く学習できることがわかります。

手続の側面をもう少し具体的に見てみましょう。
PCT出願は、「受理官庁(RO)」というところにします。受理官庁は、出願人ごとに選択できる官庁が決められます(第19規則−以下ではR19などと略記します)。

あ、知らない方のために急いで追記しますが、条約の条文に対応する規則の番号は、おおまかにいって、条文番号の2倍よりやや少ないくらいの値になります。ここではPCT10条に対応する規則なので、R20から手前を探せばよい、というわけです。

日本人がPCT出願をする場合、日本国特許庁(正確には特許庁長官)が受理官庁として働いてくれるわけです。要するにPCTの受理官庁として働くために国内的に手続を定める法律が必要になるわけで、その法律が「国際出願法」ということになります。国際出願法は、日本国特許庁が受理官庁として働くときの手続を定めたものなのですね。

さて、出願が受理されますと、所定の条件を満足することを条件に、国際出願の日が認定されます(PCT11条)。この条件のうちには、保護を求める国の指定がされていること、などが含まれます。ここで指定される国を、「指定国」と呼びます。

受理官庁(RO)は出願原本を国際事務局(IB、WIPOのこと)に送ります。また出願は国際調査機関(ISA)に回されます。国際調査のことはさておいて、その後出願は、指定国の官庁−指定官庁−へ送達されます。

この指定官庁。日本国ではこれまた日本国特許庁(正確には長官)になります。指定官庁側ではPCT出願を国内でどのように扱うかを定めておかなければなりません。そこでPCT出願された内容もわが国の特許出願へ統合する規定が必要になってきます。まず、PCT出願されたものもわが国の特許出願とするのだよ、と高らかに宣言し、次に必要に応じて書類提出を求めなければなりません。例えばPCTでは、出願人に対して、各指定国の指定官庁への翻訳文提出や手数料支払を定めていますので(22条)、この辺の手続に対応する法律が必要です。

それが、特許法184条の3以下の規定なのです。例えば、上記の「高らかな宣言」が、184条の3です。

□第184条の3 1970年6月19日にワシントンで作成された特許協力条約(以下この章において「条約」という。)第11条(1)若しくは(2)(b)又は第14条(2)の規定に基づく国際出願日が認められた国際出願であつて、条約第4条(1)(ii)の指定国に日本国を含むもの(特許出願に係るものに限る。)は、その国際出願日にされた特許出願とみなす。

なお、PCT第二章の手続に入った場合、出願人はPCT第二章の手続の効果を求める国を、指定国のうちから「選択」します。このように選択された国は、「選択国」と呼ばれ、対応する官庁は「選択官庁」ということになりますが、動きとしては指定官庁と同じように動くことになりますから、別途の規定は必要ではありません。184条の8の規定のように、必要なものだけを追加的に規定しておけばいいわけです。

要するに、PCTに対応するため、わが国では、

受理官庁としての手続の規定 → 国際出願法
指定官庁としての手続の規定 → 特許法(184条の3以下+その後は国内出願と同じ扱い)

という二つがある、ということがお分かり頂けたかと思います。

そして、184条の3以下とはそういう趣旨の規定なのです。

□「特許関係条約」

条約の学習用には、個人的には、この本をお薦めします。網羅的で、必要にして十分ではないかと思っております。

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コメント

ntakei さん。
こんにちわ。
僕としては「あてはめ」の部分が弱いです。
解釈は、レジュメで何とか対応できると考えていますが、
例えば措置系の問題で、定番の拒絶理由に対する措置というのが
ありますが、問題文から項目を上げて、問題文によって該当する
項目を厚く書くというのは、理解できるのですが、
実際項目は上がるのですが、どんな風に厚くかけば良いのか?
よく理解できていません。
請求項1、2で、1に進歩性の拒絶理由が該当する場合、
頭には、拒絶理由の検討→意見書→補正・分割・変更・国内優先
と上がるのですが、請求項1,2両方特許にしたい場合や請求項2のみ
特許したい場合で、厚く書くことが違ってくると思うのですが。
初心者的な質問で申しわけないですが、アドバイス頂けたら嬉しいです。

投稿: ぴょん吉 | 2007年1月12日 (金) 14時14分

また難しいご質問ですね。難しい、といいますのは、項目バランスの調整というのは、問題の内容に依存しますので、ご質問に対する答えが一つに定まらないからです。

例えば、「拒絶理由通知を受けた場合の措置について説明せよ」のような一行問題の場合、どこを厚く書くということもなく、全般的にバランスよく記載するべきです。

一方、クレイム1、2を含む特許出願で、クレイム1について29条2項の拒絶があったときの対応、などという問題においては、問題文の他の記載部分に配慮しなければならないこともあります。例として、「出願人は5月頃から製品販売の予定で」とか、「乙社の侵害品販売を早急に差し押さえたい」など、急ぐべき事情が挙げられて、問題文全体として早期権利化を優先するべき文言があれば、とにかくクレイム1を削除して早期権利化を図る。必要に応じてクレイム1を分割出願して別途特許性を争う、といったことを重点的に記載することが最適な場合もあります。

このように記載項目のバランスは、問題文全体の条件を汲み取った上で決めるべき問題ですので、ご質問にありますように、クレイム1、2の双方とも特許にして欲しいのか、とにかくクレイム2だけでも特許にしたいのかが問題文によって明らかにされていないのであれば、いずれかの条件でしか厚く書けない部分は、極端な話、どちらも厚く書いてはいけないわけです。どちらかを厚くすればそれだけでバランスを欠いてしまいますから。

なお、ちょっと気になったのですが、事例に即して適切な手続を挙げるといった論文の記載要領は、論文試験にいわゆる「あてはめ」とは異なりますので、参考書を選ばれる際などにはご注意下さい。

投稿: ntakei | 2007年1月12日 (金) 23時39分

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