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2007年1月15日 (月)

やっぱり補正できない? −シフト補正のはなし

飲食の後に眠くなるのは肝臓が疲れている証拠なのだそうである。ここのところその傾向があるので、飲酒を控えている。中学時代に病気で半年ほどの入院生活をした私としては、病院送りは勘弁願いたいので、そうなると一滴も飲まなくなる。「意思が強いねぇ」と、言われるがそうではない。病院が怖いだけである(いろんな意味で)。

そうは言っても、新年会の時期、出席しないわけにもいかないものもあるし、ぜひ出たいものもある。先週末も新年会。この新年会では、ワイン好きで知られる某大先生主催で(?)、ワイン当て大会が例年行われる。ワイン当てといっても、3本のワインそれぞれの産地とブドウの種類とを当てるというもの。舌が悪いのか、毎年はずしているのである。

今年は飲めないので、遠目にビンをにらんで、えいやっと解答を書いたら、なんと一位当選(同着4人)。飲まないほうが当たるなんて。もらった商品を喜ぶよりも、酒飲みを自負する者としては、そっちのほうがショックだ。

▽ さて、そんなことはさておいて、シフト補正のことである。

■審査基準案
 昨年末の慌ただしいなか、シフト補正に関する審査基準案が公表された。現在、コメント募集中の模様である。
 ここで問題点をもう一度整理する。

 シフト補正に係る条文は、17条の2第4項である。

□17条の2第4項
 前項に規定するもののほか、第1項各号に掲げる場合において特許請求の範囲について補正をするときは、その補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と、その補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明とが、第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものとなるようにしなければならない。

 そして、37条の単一性は、その要件が省令に委任されているといってよい。対応する省令は、特許法施行規則25条の8というものだ。

□特許法施行規則25条の8
 特許法第三十七条の経済産業省令で定める技術的関係とは、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう。
2 前項に規定する特別な技術的特徴とは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう。
3 第一項に規定する技術的関係については、二以上の発明が別個の請求項に記載されているか単一の請求項に択一的な形式によって記載されているかどうかにかかわらず、その有無を判断するものとする。

 この「特別な技術的特徴(Special Technical Feature、略してSTFと呼ぼう)」が問題の根っこである。

■STFとは
 STFとは発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう(特許法施行規則25条の8第2項)。そして審査基準案にいわく、この「先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴」は、

「特別な技術的特徴」とされたものが先行技術の中に発見された場合のほか、一の先行技術に対する周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではない場合や、単なる設計変更であった場合が含まれる。ここで、「先行技術」とは特許法第29条第1項各号に該当する発明を意味し、出願時に公開されていないものは含まない(37条に関する審査基準案の第3ページ、上から4行目の「(注3)」) 。

というではないか。新規性の問題ではなく、一つの引用文献から進歩性がない範囲まで含んでいるかの書き方である。

■やっぱり補正できない
 審査基準案では、単一性の審査の進め方として、最初のクレイムがSTFありの場合は触れられていない。つまり、従属のルートとなるクレイム1にSTFがあれば、現行の審査通りで問題はない。

 さて、それで最初のクレイムにSTFなしと認められてしまうと、審査が行われるのは、

特許請求の範囲の最初に記載された発明(請求項1)の発明特定事項をすべて含む同一カテゴリーの請求項に係る発明のうち、請求項に付した番号の最も小さい請求項に係る発明であって、特別な技術的特徴を有するもの

ということになる(37条に関する審査基準案第11ページ、「審査対象の決定手順」)。
 例えば、クレイム1を引用するクレイム2がある場合、クレイム2にSTFがあれば、クレイム2を頂点とする従属構造は審査します、という意味になる。なお、他にも審査にかかる条件があるので、詳しくは審査基準案を参照していただきたい。

 こころみに、ポイント的な発明であって、クレイムを1つだけ書いておく場合を考えてみる。このとき、当該クレイム1にSTFがない、と審査で認められてしまうと、このクレイム1を限定する形でクレイムしたものにしか補正ができない※。

※Kaz 氏のコメントに基づき、内容を検討して修正しました。ただし、ポイント的な発明について権利化が難しくなりそうな点は変わらないと思います。化学系のものとか、選択的な形式で記載しなければならないようなものなど、どれが「最後にSTFの有無を審査した」ものなのかが不明瞭だと、結局補正が困難になってしまいそうです。

 また、クレイム1に構成要素Aを書き、クレイム2において、1を引用して要素Bを、クレイム3で2を引用して要素Cを書いておくとする。つまり、

 クレイム1 A
 クレイム2 A+B
 クレイム3 A+B+C

となるときを考える。
 ここでクレイム1にSTFがなく、クレイム2にSTFがあった、とする。
 クレイム1にSTFがないので、クレイム2,3を残す補正をしたい。これは認められる。

(補正後・OK)
 クレイム1 A+B
 クレイム2 A+B+C

となるわけだから。しかしながら、構成要素C単体でも特許性があると考えられても、

 クレイム3 A+C (NG)

を加えることはできない。なぜなら、STFありとされる最初のクレイムの構成要素、A+Bを持っていないから

 しかし、上の例で、当初クレイムのクレイム3が、クレイム1,2を引用(マルチ引用)していたらどうだろう。つまり、

 クレイム1 A
 クレイム2 A+B
 クレイム3 A+B+C,A+C

となるわけだ。
 この場合、クレイム1にSTFがなく、クレイム2にSTFがあったとして、クレイム1を削除すると、

(補正後・OKか不明)
 クレイム1 A+B
 クレイム2 A+B+C,A+C

になる。これは認められるのだろうか。審査基準では、マルチはばらして見るというように書かれているが、どのように拒絶理由がうたれるのか、必ずしも明らかでないようである。また、仮にこれが認められるとすると、マルチを活用せよ、ということになるだろうか。まだ分からない。文言が読みにくい点が原因でもあるかと思うので、最終版の審査基準を待て、というところか。

 審査がクレイム単位で行われているのに、単一性や補正可否の判断を妙な基準(STF)なんかで行うことにするから、こういうおかしな事情がでてくるのである。また、クレイムの記載順序で審査される対象が決まるあたりをトリックとして、ひとつ拒絶しにくそうな、テクニカルな記載方式を思いついたが、これはちょっと暖めておこう。

 個人的には、このシフト補正の要件の濫用を怖れる。審査基準には過度の適用はしないというように書かれているようだが、審査官によっては濫用する者もいそうである。特許庁側では、しかるべきチャネルを設けて各審査官の対応状況をモニタしてもらいたい。

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コメント

 古い記事にコメントするってのはどうなんでしょうね。まあ、検索で古い記事にたどり着く人もいるみたいですし、有益な内容であれば書いて邪魔になることもないんでしょうけど。

 で、目下、審査基準改訂案を勉強中なのですが、どうも上記の記載に間違いではないかと思われる箇所があるので、指摘してみます。もし私の勘違いだったらご容赦を。
 シフト補正禁止について記載された審査基準案によれば、補正前の全てのクレイムがSTFを有していなかった場合、補正後のクレイムに対して、引き続き単一性に係る審査基準と同様の手順でSTFを有する発明を発見すべく審査を行うとなっています(P5、4.3.2節)。ということは、クレイム1つだけの出願をして、あえなく29条1項違反の拒理をもらってしまった場合、当該クレイムに対して直列従属であり、かつ単一性の要件を満たす発明群を補正後のクレイムとすれば、シフト補正違反の拒絶理由通知は受けないと読めます。(厳密にいうと、シフト補正要件は満たさないけどお情けで審査してもらえるってことなんでしょうが、それを言ったら最初からこのようなクレイムを従属項として記載しておいた場合も、単一性要件違反ではあるけどお情けで審査してもらえるってことで、同じ問題ですからね)
 結局、補正後に新たに追加されたクレイムが全て最初の出願にくっついていたと仮定した場合に、単一性の審査基準に照らして審査対象としてよいものは、補正後に追加されたものであっても審査対象とし、単一性の審査基準に照らして37条違反で拒絶すべきであったものは、シフト補正要件違反で拒絶する、ということになるんだと思われます。
 もちろん、審査対象にはしてもらえたところで、一発登録は考え難く、新たな拒絶理由通知は最後の拒絶理由通知となるであろうことを考えれば、クレイム1つだけの出願はすべきでないことに間違いはないんでしょうが、

> 当該クレイム1にSTFがない、と審査で認められてしまうと、これとSTFを共通する発明はあり得ないから、いかなる補正もシフト補正として拒絶理由になる

というのは間違いなのではないでしょうか。というか、むしろこういった「必至」の状態を避けるために、現行の単一性の審査基準も改正されて多少ユーザフレンドリーになったんじゃないでしょうか。

投稿: Kaz | 2007年1月28日 (日) 19時06分

そうか。この4.3.2は、そう読めますね。

[補正後の審査対象の決定手順]
1 第I部第2章「発明の単一性の要件」の4.2の審査対象の決定手順に従って、最後に特別な技術的特徴の有無を判断した補正前の特許請求の範囲の発明の発明特定事項をすべて含む同一カテゴリーの請求項に係る発明のうち、請求項に付した番号の最も小さい請求項に係る発明にいて、特別な技術的特徴を有するかどうかを判断する。

の部分の意味がよくわからず、「補正前の請求項を見直した上で」と見るのかと思ってました。そうとすると、技術的特徴のないものからあるものへの補正なのでシフト補正と認めるのかと。そうでなくて、ここは補正前にSTFなしの請求項が1つだけだとすると、それに含まれている発明特定事項をすべて含んでいて、かつ同じカテゴリであるものなら、STFがあるかどうかを判断して…という意味なのですね。

ちょっと記事を訂正しておきます。

投稿: ntakei | 2007年1月29日 (月) 01時13分

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