« ノロ | トップページ | 無粋なはなし »

2006年12月22日 (金)

[弁理士試験]特許法案内(16)

いよいよ暮れも押し迫ってきました。平成14年以降は試験制度が変更されたために、そして定番だった基本書の入手が困難になってしまったので、昔のように基本書を年内に読み込む、という勉強法をする人を見なくなりました。年内に基本書を読み込んで、年始からは答練やゼミなどで論述のポイントを検討し、5月の連休のころからは一次対策に集中。一次終了後は選択科目の勉強をする、というのが一般的で、まぁ、合理的なスケジュールだったと思います。最近の対策向けではないかも知れませんね。

▽ さて、前回は特許法における実施権規定について概観いたしました。今回は少々中に分け入ってみたいと思います。

■実施権をめぐる試験問題
 実施権をめぐっては、法定・裁定の通常実施権については、その発生要件や裁定手続がまず試験問題に採り上げられます。また登録の効果や、その発生要件、移転、再実施権の許諾などは、専用実施権や許諾による通常実施権の場合も問われるケースがあるでしょう。また、この実施権規定については、他の法域(実案・意匠・商標)も併せて一覧してしまうのが効率的です。「産業財産権四法対照法文集〈平成19年度版〉」が活躍する場面です。

■発生要件の整理

□先使用(79条)
 特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。

 ここで、「特許出願に係る発明の内容を知らないで…又は…知得して」というのは、善意(法律用語の善意は不知であることで、一般的にいう「善意」とは何の関係もない)である趣旨で、最も適切には「知得経路が正当であること」の要件といえます。
 前半は、自ら発明をした場合ですから知得経路は当然正当なのですが、後半で「特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得」した場合も知得経路が正当となります。

 特許出願Aに対する先使用権を考えてみます。
 このAは、発明者a1が出願人a2へ譲渡して出願人a2が出願したものとします。このルートを第1ルートとしましょう。この第1ルートで知ったのでは、「特許出願に係る発明の内容を知っていた」ことになってしまいますから、知得経路正当とは言い難い。
 一方、このルートとは異なり、別の発明者b1がした発明を実施者b2が知った場合、つまりこの発明者b1を起点とする第2のルートから知った場合は、「特許出願に係る発明の内容を知っていた」とはいえない(第1ルートで発明が知らされていた場合は知った経路が正当とは言いづらくなるでしょう)ので、知得経路正当、ということになります。

 このように、別のルートで発明を知ったことを要件とする(いわゆる2ルート説、または二重発明説)のが先使用権の発生における原則です。

 しかし、この原則に例外を設ける考え方があります。第1ルートで知った場合でも先使用権を認めるケースです。
 すなわち、自己発明が盗まれ、他人に出願されてしまった(いわゆる冒認出願)場合の発明者、出願の権利を譲渡したが実施はしている発明者、公知技術であるのに過誤登録された場合の公知技術の実施者については先使用権の主張を認めるべき、ということです。これは中山信弘先生の考え方です。この考え方については、「注解特許法〈上巻〉第1条‐第112条の3」などが詳しいかと思います。この考え方を認めると、2ルートでなくても先使用権が認められる例外がある、ということになります。試験問題に向かう場合は、この中山先生の立場でOKです。

 さて、さらに発生要件が続きます。

(1)知得経路正当、のほか、
(2)出願の際、「現に」
(3)日本国内において
(4)実施の事業またはその準備をしていた そのとき、
(5)その事業の目的、実施範囲内で権利を有する

ということです。

(4),(5)は論文でも論点にできそうなポイントですので、基本書で抑えて頂きたいと思います。例えばどの程度のことを「準備」といえば良いのでしょう。試作機1台の製造程度では準備とはいえないなどとする判決もあります。実施の準備というからには、製造機器購入・設置の具体的な予定など、事業化の準備が不可欠と言えるのではないかと思います。

 この辺りは、実は、先使用権規定の趣旨にも戻るものです。先使用権の規定の趣旨としては、例えば吉藤(特許法概説 (オンデマンド版))によると、

  • 先発明保護説
  • 教師説
  • 公平説
  • 経済説
  • ノウハウ保護説

などが列挙されていますが、一般的には、出願のときに既に実施ないしその準備をしていた善意の事業者がその後の出願に係る特許権のために実施を継続できなくなるということは、発明を出願前既に占有していたことが客観的に認められる善意の先使用者を犠牲にするもので、特許権者を過剰に保護することに帰し、著しく公平の観念に反するという、「公平説」が基本です。
 しかしながら、この公平説では、試作品まで作製していた実施者の保護を述べるのに、ちょっと弱い、と思われる場合は、経済説を持ち出します。
 経済説では、特許出願の際、既に実施またはその準備をしていた事業の継続を不可能にすることは善意の実施者に酷であり、国民経済上ないし産業政策上好ましくない、ということになります。この説では、実施準備がある程度の経済規模をもっていない場合は、国民経済や産業政策の観点を持ち出すことができませんので、先使用権なしとする論理基盤には十分ではないかと思います。
 吉藤(特許法概説 (オンデマンド版))も、この公平説と経済説とを併せたものが先使用権の趣旨であるとします。妥当だろうと思います。

 さて、このペースでは先使用ばかりで終わってしまいそうですが、念のため、意匠・商標の先使用規定も。

□意匠の先使用規定(29条)
 意匠登録出願に係る意匠を知らないで自らその意匠若しくはこれに類似する意匠の創作をし、又は意匠登録出願に係る意匠を知らないでその意匠若しくはこれに類似する意匠の創作をした者から知得して、意匠登録出願の際(第9条の2の規定により、又は第17条の3第1項(第50条第1項(第57条第1項において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。)の規定により、その意匠登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの意匠登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現に日本国内においてその意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、その意匠登録出願に係る意匠権について通常実施権を有する。

□商標の先使用規定(32条1項)
 他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(第9条の4の規定により、又は第17条の2第1項若しくは第55条の2第3項(第60条の2第2項において準用する場合を含む。)において準用する意匠法第17条の3第1項の規定により、その商標登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの商標登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

意匠・商標には、その昔の特許法の規定が残っています。例えばここでいう要旨変更補正による出願日の繰り下がりです。従って出願日が繰り下がる場合の手当てが残っています。なんのことはありません。「出願の際」というのに、

要旨変更補正で出願日が繰り下がっていたら、その繰り下がった日(要旨変更補正をした日)が「出願の際」だ、

という注意書きが入っているだけです。
 多少の相違点があるとすれば、商標法で、「不正競争の目的でなく」という要件が入っていることに注目して下さい。いいですか、一次試験で、

□仮想試験問題

 他人の商標登録出願前から日本国内においてその商標登録出願に係る指定商品についてその商標に類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。

というのがあったらどうですか。すぐにバツ、といえるでしょうか。「不正競争の目的でなく」という文言を省いたわけです。条文通りになっていないので、こういう枝は基本的には(あくまで基本的には)バツとなると考えていきます。

うーん、長くなってしまいましたね。今回は先使用をちょっとやっただけなんですが。やっぱり先使用権はいろいろありますか。次回はもうちょっと速度を速めつつ、他の実施権について見ていきたいですね。

□注解特許法のこと
 この本については、「持っていた方がいいですかね」という質問を受験生から時折聞く。そのとき私は断定的に「要らないです」と答えています。基本的に要らないのは事実なのです。しかしながら、規定の内容に分からないことが少しでもあると不安でしようがない、という人もいるらしい。そういう人であれば持っていてもいいかも知れない。

□参考文献

・四法対照

・中山「工業所有権法」

|

« ノロ | トップページ | 無粋なはなし »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: [弁理士試験]特許法案内(16):

» 大学受験 [大学受験予備校 BB塾]
これで成績が上がらなければあきらめてください。 代ゼミ・駿台・河合などカリスマ講師の授業が自宅で何度でも受けられる! 予備校費用は10分の1! [続きを読む]

受信: 2006年12月22日 (金) 03時44分

» LEC GO GOポイント5倍キャンペーン [中小企業診断士への道]
…★12/23(土)~25(月)まで▽クリスマススペシャル!LEC GO GOポイント5倍キャンペーン! 12/23(土)~25(月)の3日間、LECオンラインショップで、 各種通信講座や書籍をお申込の方にもれなくポイント5倍!!通常5%のポイントが、期間中はなんと25%分...... [続きを読む]

受信: 2006年12月23日 (土) 13時13分

» 語学・資格1位~10位 [無料レポートnavigator]
『勉強嫌いな人の為の記憶法、勉強法 ●●●を使って国家資格合格!!』: [続きを読む]

受信: 2006年12月25日 (月) 19時17分

« ノロ | トップページ | 無粋なはなし »