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2006年12月29日 (金)

[弁理士試験]特許法案内(17)

まずは、こちらの本。拒絶理由通知等の起案英文が掲載されているというのが面白いので、一応ご紹介まで。上記起案英文以外は、ウェブでも参照できる模様ですが…。

▽ さて、前回は法定・裁定の通常実施権を説明するつもりが、先使用権だけで終わってしまいましたが、それでもなお、先使用権については書き足りていない部分があります。今年最後の記事は、まずはその落ち穂拾いから。

■先使用権の落ち穂拾い
 前回は、先使用権の発生要件について書いていきましたが、その結果、「その事業の目的、実施範囲内」についての説明が欠けてしまいました。
 2次試験の作成者が喜びそうな論点が詰まっている部分ではあるのですが、それを解説していったのでは、今回もスペース全体を使い切ってしまいそうです。一方、この論点については多くの書籍で十分整理されていますので、少々後へ回そうと思います。
 なお、吉藤の記載には、「先使用権の援用」として、先使用権者の手足として働く第三者にも先使用権を援用することが記載されています。実施権者に対する「一機関」(いつか書いたと思いますが)と同じ要件が必要ですが。

 なお、この先使用権、今年は先使用権の利用についての議論が取りまとめられた年でもあり、来年の試験でも注目してよい規定の一つではないかと思います

■中用権など
 中用権というのは、80条の規定で発生する実施権のことです。

□80条(1項)
 次の各号のいずれかに該当する者であつて、特許無効審判の請求の登録前に、特許が第123条第1項各号のいずれかに規定する要件に該当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許を無効にした場合における特許権又はその際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。
1.同一の発明についての2以上の特許のうち、その一を無効にした場合における原特許権者
2.特許を無効にして同一の発明について正当権利者に特許をした場合における原特許権者
3.前2号に掲げる場合において、特許無効審判の請求の登録の際現にその無効にした特許に係る特許権についての専用実施権又はその特許権若しくは専用実施権についての第99条第1項の効力を有する通常実施権を有する者

 この80条については、論点的な部分が少なく(パリ条約との抵触という問題点はありましたが、以前述べましたね)、二次での出題可能性はかなり低いと思われます。むろん、規定の存在自体を知らないというのは論外ですが。

 この80条の趣旨は、専ら経済説(折角の実施設備の荒廃を怖れる)に立ち、衡平の観点はありません。

 類規では、実用新案法の20条との相違点に注目してください。こういう比較において、「産業財産権四法対照法文集〈平成19年度版〉 」は上下段で見比べることができるので便利です。

□実用新案法20条(1項)
 次の各号のいずれかに該当する者であつて、特許法第123条第1項の特許無効審判(以下この項において単に「特許無効審判」という。)の請求の登録前に、特許が同項各号のいずれかに規定する要件に該当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許を無効にした場合における実用新案権又はその際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。
1.実用新案登録に係る考案と特許に係る発明とが同一である場合において、特許を無効にした場合における原特許権者
2.特許を無効にしてその発明と同一の考案について正当権利者に実用新案登録をした場合における原特許権者
3.前2号に掲げる場合において、特許無効審判の請求の登録の際現にその無効にした特許に係る特許権についての専用実施権又はその特許権若しくは専用実施権についての特許法第99条第1項の効力を有する通常実施権を有する者

 つまり、実用新案権者には中用権が発生しません。理由は…まぁ、わかりますよね。
 なお、途中で譲渡などがあった場合、経済説の観点からして、無効になった時点で特許権者だった者等がこの中用権を得ます。そのほか、80条1項3号などにあるように、通常実施権については登録が必要であること、並びに80条2項のように中用権者を認めざるを得ない特許権者等は、対価を受ける権利があることなどに注意してください。このあたりが1次のポイントといえばポイントです。

 商標法33条にも類規がありますが、商標法の場合、あくまでも商標に化体した業務上の信用が保護の対象ですから、需要者に広く認識される必要などがあることに注意が必要です。

■移転のこと
 さて、81条、82条を措きまして、裁定による通常実施権をまずは流して見ましょう。
 裁定によるもの、ここには第1に不実施の場合(83条2項)があります(83条1項は協議を求められるという規定です)。ちなみに、この不実施の場合に関連して、特許法では先に裁定手続を規定してしまいます(84条から91条の2)。さて裁定によるものとして、不実施の場合(83条2項)のほか、利用発明の実施を求めるもの(92条3項)、それに対するクロスライセンスの請求(92条4項)、公共の利益のために裁定を求めることができるとするもの(93条2項)があります。なお、92条で1項、2項、93条の1項は、83条1項と同様、協議を求めることができるという規定で、この協議が整わないときに「裁定」ということになるのです。92条を例にして図式的にまとめると、

92条
(A)
 利用する特許権者→協議請求→利用される特許権者 (1項) 
           ↓不調等のとき
 利用する特許権者→裁定請求→特許庁長官 (3項)

(B)
 利用される特許権者→協議請求→利用する特許権者 (2項) 
             ↓不調等のとき
         3項の裁定請求があれば…
             ↓
 利用される特許権者→裁定請求→特許庁長官 (4項)
  但、裁定請求に対する答弁書提出期間内にするべし

…というようなことです。要するに「裁定の前に協議してこい」ということで、こういうのを「協議前置」といったりします。
 そして、94条は移転のことです。

□94条
 通常実施権は、第83条第2項、第92条第3項若しくは第4項若しくは前条第2項、実用新案法第22条第3項又は意匠法第33条第3項の裁定による通常実施権を除き、実施の事業とともにする場合、特許権者(専用実施権についての通常実施権にあつては、特許権者及び専用実施権者)の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。

2 通常実施権者は、第83条第2項、第92条第3項若しくは第4項若しくは前条第2項、実用新案法第22条第3項又は意匠法第33条第3項の裁定による通常実施権を除き、特許権者(専用実施権についての通常実施権にあつては、特許権者及び専用実施権者)の承諾を得た場合に限り、その通常実施権について質権を設定することができる。

3 第83条第2項又は前条第2項の裁定による通常実施権は、実施の事業とともにする場合に限り、移転することができる。

4 第92条第3項、実用新案法第22条第3項又は意匠法第33条第3項の裁定による通常実施権は、その通常実施権者の当該特許権、実用新案権又は意匠権が実施の事業とともに移転したときはこれらに従つて移転し、その特許権、実用新案権又は意匠権が実施の事業と分離して移転したとき、又は消滅したときは消滅する。

5 第92条第4項の裁定による通常実施権は、その通常実施権者の当該特許権、実用新案権又は意匠権に従つて移転し、その特許権、実用新案権又は意匠権が消滅したときは消滅する。

6 第73条第1項の規定は、通常実施権に準用する。

長いのですが、重要なので全文引用しました。XX条、XX条を除き、YY,ZZの場合に移転できる…という規定ぶり。見るからに頭痛くなりそうな規定です。しかし解きほぐせば大したことはありません。覚悟を決めて1項の除外部分を見てみると、

「第83条第2項、第92条第3項若しくは第4項若しくは前条(註・93条)第2項、実用新案法第22条第3項又は意匠法第33条第3項の裁定による通常実施権を除き」

とあります。何のことはありません。この部分、じゅんすいに、

「裁定による通常実施権を除き」

と言っているだけです。
 このとき、

 (1)実施の事業とともにする場合、
 (2)特許権者(専用実施権についての通常実施権にあつては、特許権者及び専用実施権者)の承諾を得た場合
 (3)相続その他の一般承継の場合

これらの場合に「限り」、移転できるというのが94条1項の規定なのです。憶え難ければ、「実施の事業とともにする」を実施の「J」、「…の承諾を得た」を承諾の「S」、「一般承継」を「I」として、

 ・裁定以外の通常実施権= JSI
 ・不実施の場合= J
 …

などと整理すればよいでしょう。利用の場合が少々複雑ですが、こうして頭文字でまとめると、ほとんどが短く済むので割合憶えやすく整理できると思います。
 さて、長いのでここで切りましょう。次回は裁定手続かな。年をまたいでしまいますが、仕方ないですか。

 それでは、よいお年をお迎えください。

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