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2006年12月15日 (金)

[弁理士試験]特許法案内(15)

今日は、弁理士の有資格者のための試験、つまり「特定侵害訴訟代理業務付記」の試験の合格発表がありました。今日もまた、悲喜交々の日であったわけです。合格された方はおめでとうございます。不合格だった方は、気を取り直して来年の合格を目指して頂きたいと思います。

▽ さて、今回は少し落ち穂拾いになりますが、実施権関係の規定を概観していきたいと思います。

■利用の促進
 特許権というのは、技術の保護の機能を持っている反面、権利者が実施しなければ当該技術は誰も実施しないものになってしまいます。特許発明の実施がなければ、産業発達という法目的達成の両輪(保護と利用)の一方(利用)が損なわれてしまうわけです。とはいえ、実施のための設備を持っていなかったりする権利者は、実施したいものの実施はできず、という状態になり、しかしながら権利を譲ってまで誰かに実施させたい、という気持ちも起きなかったりします。

権利を手元に留保したまま、実施権原を他人に設定する

ことはできないものでしょうか。
 そういう社会的要請が実際にあることに鑑みて、というのが、ここでいう実施権規定を設けた理由の一つです。こちらの理由は主として許諾による実施権(77条、78条)に妥当していきます。

また、別の理由。それは公益的理由です。こちらは公益的といっても、詳しくは多様なのですが、法定実施権(79条ほか)において妥当します。

■典型的な実施権は2種類
 さて、特許法に規定されている典型的な実施権には、

通常実施権(78条ほか)
専用実施権(77条)

 の2種類しかありません。

 竹田先生の「特許の知識 [第8版]」をご覧になるとわかりますが、実施権ライセンスの現場での契約内容は多種多様です(こうした例をよく盛り込んでしまっているために、この竹田先生の本は実務向きであっても弁理士試験向きとは言い難いのです)。そうした契約のうち、特に有名になってしまった「独占的通常実施権」というものがありますが、これもまた特許法に直接の規定があるものではありません。

 まず、典型的な実施権の主な規定を見てみましょう。許諾によるもの。77条と78条です。

□第77条 特許権者は、その特許権について専用実施権を設定することができる。
2 専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を専有する。
3 専用実施権は、実施の事業とともにする場合、特許権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。
4 専用実施権者は、特許権者の承諾を得た場合に限り、その専用実施権について質権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができる。
5 第73条の規定は、専用実施権に準用する。

□第78条 特許権者は、その特許権について他人に通常実施権を許諾することができる。
2 通常実施権者は、この法律の規定により又は設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を有する。

 専用実施権は、特許権者の実施をも排除して、設定範囲内での実施を独占します(68条但し書き参照)。特許権自体の譲渡まではされていませんが、定められた範囲内においては権利が譲渡されたのと実質的に同じ状態を作ります。そういう意味ではなかなか強烈な権利です。
 なお、設定行為で定めた範囲、というのは期間、地域、内容的な面での限定、ということです。例えば、「3年間(期間)、関東地方のみ(地域)、本件発明は銀塩カメラにもデジカメにも使えるが、銀塩カメラに対する実施に限定(内容)」というようなことです。

 これに対して通常実施権というのは、実質、「実施していても権利者から侵害を問われない地位」という程度のもので、誰かの実施を妨げる効力までは認められていません。

 よく、専用実施権と通常実施権との差異、というような出題があるのですが、これら各権利が、上に書いたように、まったく性質の違う権利であることを理解した上でその相違を学習されると、納得が行きやすいと思います。

 例えば差止請求権(100条)ですが、「特許権者又は専用実施権者」が、その「特許権や専用実施権」を侵害する者に対して差止めを請求可能と規定しています。専用実施権者は、実質的に特許権の一部を切り取って持っていったような立場ですから、この規定は当然です。一方、通常実施権というのは、特許権者から「侵害だ」と言われても抗弁できるという立場でしかありませんから、他人が使っていても、その他人を責める根拠がありません。

※いそいで補足しますが、「特許権の一部を切り取ったような」という表現は論文で使ってはいけません。規定の歴史からすればある程度正しいですが、論文でこの表現を使ってはいけません。

■法定実施権
 実施権の話題は豊富なので、今回は深い内容に入らず、概要にとどめておきたいと思います。それで、概要としてあと説明しておきたいのは、法定の実施権です。特許法の場合、法定実施権は、

 先使用権(79)
 中用権(80)
 意匠権満了時の意匠権者に対するもの(81)
 意匠権満了時の実施権者に対するもの(82)
 不実施の場合の裁定(83(2))
 利用・抵触時の裁定(92(3)、(4))
 公共利益のための裁定(93)
 職務発明に関するもの(35(1))
 後用権(176)

があります。いずれも通常実施権になります。
 ちなみに、ですが、パリ条約5条(4)をご覧下さい。不実施裁定の場合の規定ですが、規定の中ごろに「強制的に設定された実施権は排他的なものであってはならない」という部分がありますね。不実施裁定の実施権は条約によって専用実施権にはなり得ないのです。さらにTRIPs31条もついでにご覧下さい。一般的に裁定に関する規定と読むことができますが特にその(d)、「他の使用は、非排他的なものとする」とあります。ここでも専用実施権であってはならないことが明確に約束されているわけです。…これは余談。

■実施権については
、発生の要件や、移転するための要件、裁定手続、登録の効果など、一次試験関係者が喜びそうな話題が盛りだくさんです。そういうわけで、やや一次試験対策が中心になりそうですが、次回以降、各規定を見ていきたいと思います。

□ついでの余録
 パリ条約が出たついでに。パリ条約4条Bというのは、旧試験制度での合格者ならソラで言えるほどの重要規定の一つです。

・4条B
すなわち,A(1)に規定する期間の満了前に他の同盟国においてされた後の出願は,その間に行われた行為,例えば,他の出願,当該発明の公表又は実施,当該意匠に係る物品の販売,当該商標の使用等によつて不利な取扱いを受けないものとし,また,これらの行為は,第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせない。優先権の基礎となる最初の出願の日前に第三者が取得した権利に関しては,各同盟国の国内法令の定めるところによる。

A(1)に規定する期間というのは優先期間のことです。ここで「他の出願」によって「第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせない」と読めることに注意して下さい。使用の権能というのはまさしく実施権のことです。
 さて、わが国特許法80条の規定によると、無効審判で無効にされた場合の一方の権利者は、その無効になることを知らずに、実施準備等をしていたときにいわゆる中用権として通常実施権を獲得します。先願があるとの理由で無効になった場合を考えますと、この80条、パリ4条Bに違反していないでしょうか。
 これは論点の一つとして以前よくもてはやされた議論です。吉藤の解決の仕方が有名で、パリ4条Bに相当しない中用権もあり得ることからして、パリ4条Bの規定に引っ掛かる場合、特許法26条等、条約の優先を定めた規定によって80条の適用をしなければいい、とします。他の理由付けも見たことがありますが、それなりに納得のいく理由付けは、この吉藤のものしか知りません。まさか、こちらは一次試験で聞かれることはないでしょうね。

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コメント

> 特定侵害業務付記
こんな略、初めて見ました。まるで侵害する人みたいですけど・・・。

投稿: Kaz | 2006年12月15日 (金) 12時45分

侵害しない人になるよう、名称を修正しました。

投稿: ntakei | 2006年12月15日 (金) 14時23分

今年、無事能力担保合格した者です。
考えてみれば、弁理屋で侵害業務がなんちゃら っていかがわしい商売みたいですね。
表の顔は、水道の詰まりを直したりする便利屋であり、裏の顔は違法行為請負人みたいな。
知財訴訟代理資格とでもしてくれば、人聞きがいいような・・・
もっとも、著作権とか、不正競争の一部は訴訟代理できないんですが。

投稿: | 2006年12月15日 (金) 14時30分

コメントありがとうございます。

制度創設のときにはいろいろ議論がありましたが、いまでは収束してしまいましたね。
当時の議論としては、
・弁護士の専権業務に抵触しない名称、
・新たな資格創設と見られない名称
というような条件が聞かれました。一時期、「訴訟弁理士」や「上級弁理士」という言い方はどうかと言われた気もしますが、そういうアグレッシブな表現も適切でなかったようです。

…そういえば、英文表記のほうはどうなったんだっけ??

投稿: ntakei | 2006年12月15日 (金) 23時00分

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