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2006年11月 2日 (木)

[弁理士試験]特許法案内(10)

結局10時を大幅に回ってしまいましたね。
前回は、クレーム解釈の具体的基準について、吉藤を基礎として、解説を展開しました。

▽ 今回は、その特許権の効力が制限される場合について見てみましょう。

■原則は68条
 ご存知のように、
「特許権者が業として特許発明の実施をする権利を専有する(68条第一文)」
とあります通り、特許権の効力の実体は実施権の専有にあります。むろん、同条但し書きのように専用実施権を設定した場合の、その範囲内での実施は特許権者といえども行うことができません。
 なお、このように、特許権者といえども実施できない場合としては、

  • 利用抵触関係にある場合(72条)
  • 専用実施権を設定している場合(68条ただし書き)
  • 共有に係る特許権において、共有者との特約がある場合
  • 他の法律で実施が禁止されている場合

などがあります。最後の「他の法律で禁止されている場合」というのは、例えば麻薬取締法などで取引が禁止される薬剤の製法などがあります。こういうのを特許にしていいのか、と思われるでしょうが、いいのです。例えば販売が制限されるような物でも、法律で制限されることを理由にして、その「物」やその製法を拒絶、無効にできない、というのはパリ条約でも規定がある通りです(パリ四条の四)。…少々脱線いたしました。

 この68条から、「業」としての実施でない場合には及ばないことがまずわかります。特許権の効力は、業として、でない実施には及ばないのです。これは「個人的・家庭的な実施を除く趣旨」と説明されています。その理由付けとしては、いつかも書いたように思うのですが、「そこまで及ぼすのは産業立法として行き過ぎ」であるということになります。

 なお、もう一つ脱線しますと、この「業として」の解釈問題は、一次試験の問題としても過去によく出題されたものです。例えば、「国営事業において用いる場合」であるとか、「一度だけ(事業に)用いる場合」、「非営利事業」など、いかにも特許権の効力を及ぼしてはいけないかに思えるキーワードをいれてきます。しかし、相手が国だろうと、実施権原がない以上は侵害者です。国営事業は個人的・家庭的実施ではありません。同様に、一度だけだろうと何だろうと、それは個人的・家庭的実施ではありません。ただ、そういう判断で切り落としていけばいいのです。

 さらに一つ脱線しますと、家庭的実施に見えて、実のところ侵害というケースもあります。家具などの特許権で、組立てセットを販売するような行為です。家庭内で組み立てるので、家庭的実施といえそうですが、こちらは間接侵害(101条)の問題となります。

 さて…

■例外が69条や72条…
 68条の例外には、二種類あると説明されます(吉藤)。

  • 制限的例外
  • 拡張的例外

 一つの例外が、今回解説している効力制限などの「制限的例外」、もう一つは効力の範囲を拡張する「拡張的例外」(均等論など)です。
 今回は、制限的例外の説明ですが、その制限的例外には、さらに二種類があると考えると整理しやすいです(中山「工業所有権法 上巻」より)。

  • 権利の限界からくる制限(69条)
  • 他人との関係からくる制限(72条など)

 ここではまず69条を見ていきましょう。

□69条
特許権の効力は、試験又は研究のためにする特許発明の実施には、及ばない。

2 特許権の効力は、次に掲げる物には、及ばない。
 1.単に日本国内を通過するに過ぎない船舶若しくは航空機又はこれらに使用する機械、器具、装置その他の物
 2.特許出願の時から日本国内にある物

3 2以上の医薬(人の病気の診断、治療、処置又は予防のため使用する物をいう。以下この項において同じ。)を混合することにより製造されるべき医薬の発明又は2以上の医薬を混合して医薬を製造する方法の発明に係る特許権の効力は、医師又は歯科医師の処方せんにより調剤する行為及び医師又は歯科医師の処方せんにより調剤する医薬には、及ばない。

 まず第一項を見ましょう。これの理由付けは青本(工業所有権法逐条解説)の記載がコンパクトですが、それをさらにまとめてみます。

・試験又は研究は、特許に係る物の生産等を目的としていない(侵害を目的としていない)
・技術を次の段階に進歩させることを目的としている

尤も、改良発明のためだけでなく、その効果の追試をも認める必要があるとする見解もあります(吉藤、中山)。妥当でしょう。

 なお、この条文の第一項、「試験又は研究のためにする」の「ためにする」について、「XX試験装置」という特許発明を侵害していた人物が、「試験装置を使って、試験をしていたので、試験のために実施したんだ」という主張をしたことがあった…のでしょうか。この「ためにする」は「試験又は研究としてする」と解釈するべき、というのを必ず書いておく方がいいようです。理由は、上述のとおり、「さもないと、試験機などの発明が無意味に帰する」というわけです。

 また薬事法の承認を受けるための試験が、ここでの試験に該当するかが明らかでなかった時代があったのですが、これについては、最判平11.4.16において、「該当する」という結論になりました。権利期間中での第三者の薬事法承認のための試験実施を認めないと、事実上特許期間の延長と同じ効果が生じるというのがその理由です。

 2項1号については、パリ条約5条の3の規定と同趣旨で、2項に該当するような実施は短時間で国外にでていくもので特許権者に与える損害は軽微であるし、その一方でこれを差し止めると国際交通に支障を生じるというのがその理由です。
 もっとも、この規定も、一次試験問題のネタにされることがあります。例えば「特許権に係るものを、単に日本国内を通過するに過ぎない船舶内で販売する行為」がここでの例外に該当するか、というようなものです。これは「これら(船舶等)に使用する機械、器具、装置など」に該当しないので、例外にならず、侵害です。要するに、船舶とともに、いずれ出ていってもらいませんと、「国外にでていくもので特許権者に与える損害は軽微」という理由付けが根本から崩れてしまいますよね。

 2号は、当然の規定ですが、特許出願の「時」という文言にだけ注意して下さい。国内優先との関係では先の出願の時になります。

 3項、これは調剤行為のように迅速を要するかも知れない行為に及ぼしてしまうと、医療現場に混乱が生じてしまう、という理由で設けられています。ですから、その場で調合する場合の規定でして、医薬品単品については例外ではありません(予め分かることですから、現場の混乱がないからです)。なお、ここでいう医薬、実は人体に関するもののみと言われています。動物用は例外にならない、というのです。このあたりは解釈上の問題です。

 中山などでは、この外に、再審で回復した特許権の効力制限というのも、権利の限界からくる制限の一種として挙げられています。このあたりは、特許法の案内としては、特別な実施権について説明するときに併せて説明した方が便宜のような気がします。

 次回は、他人との関係からくる制限(72条など)に焦点を当ててみましょう。こちらは論点満載。ちょっと大変なんですよねぇ。

・吉藤、中山、青本などは、ページ右端のリンク集をごらん下さい。

□今週のベテラン用補遺
 初心者禁止欄ですw。
 えー69条1項について、「試験または研究」の合法的類型を挙げた染野啓子先生の論文、「試験・研究における特許発明の実施(I)」(AIPPI、33巻、3号)に触れてないじゃん、というベテランさんもいるでしょう。しかし、あの議論を論文でしなければならない場合が、そうそうあるとは思えません。
 しかしまぁ、気になるというのなら、書きましょう。
 染野先生によれば、許される類型は、

 (1)特許性の調査=特許性があるかどうかを確認する試験・研究、
 (2)機能調査=特許発明実施の効果、副作用などの試験・研究、
 (3)改良・発展を目的とする試験

 の3態様あり、これに対し、許されない類型としては、

 (1)経済性調査のための試験として、実際に販売してみるなどの試験

が挙げられています。
 これらは、あくまで学者先生の議論なのであり、こういう類型について勉強しておくことがいけないとは思いませんが、これをそのまま論文で、滔々と述べる機会はないでしょう。
 試験問題を見て、これらを書かなくては、と思った場合、試験問題の題意をもう一度確認して下さい。単純に、
「靴下製造方法の試験で作った靴下を販売したら侵害です」
と書けば終わりじゃありませんか??


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