« [弁理士試験]特許法案内(13) | トップページ | 06年、弁理士試験結果 »

2006年11月27日 (月)

乱読日記[34]

「失敗学のすすめ」 畑村洋太郎

「失敗学」なる学問を奨励する筆者が、その骨子を紹介した書籍で、「続々・実際の設計―失敗に学ぶ」の姉妹書という位置づけになるらしい。

▽ 失敗学の思想と、実践方式の紹介が素晴らしい好著のため、後半、表題と内容が多少乖離しているように読めるのがちょっと残念であるが、一読の価値はあると思う。

■ 本書の要旨は、

「失敗を活かす環境をつくれ」

ということである。通常、失敗をすると、した人はそれを隠したがるし、それを取り巻く側はそれを責めたがる。
 隠させない環境というのは、特許と同じように、隠すよりもあらわにした方が利になる仕組みを作ることであり、責めない環境というのは、失敗をなるべくポジティブなものに昇華させる体制づくりのことである。

■ また、本書のもう一つのテーマといえるのは、

「全体的な視点の必要性」

とでもいうべきものだ。

 技術の枝葉だけを見て、その末葉だけを「改善」していくと、いつのまにか全体の中で問題を引き起こすことがある。要は、製品単位とか、そういったまとまりのある単位で改善を眺めることの必要性を述べている。

 例を挙げて言えば、業務効率化のために加工工程の一部を省略してしまうなどの「工夫」によって、製品化されたときの部品強度に問題が生じるなどのことである。また、直接書かれてはいないが、例えば衝突強度を高めるためにボディ重量を上げたが、駆動能力を超える重量になるかどうかの計算をしていなかったので、動かない車両が出来てしまった、というようなのも、こういう「枝葉」問題の一つだろう。

 専門化がキツクなりすぎると弊害があるということである。自分の仕事を翻って見れば、特許事務所だってゼネラリストが求められるし、企業知財部であっても、プロセキューション(権利化)とリティゲーション(権利行使)の双方の視点を備えた人材が要求されるのと同じことであろう。

 もっとも、特許事務所としては、万が一の失敗が生じたときにも信頼を維持でき、それを次の成功につなげられるかどうかは、クライアントとの間の関係に築き方によってしまうところがあると思う。知財の場合、小失敗でも命取りになる可能性は否定できないから、この失敗学をそのまま取り込むのは難しいかも知れない。特許庁が柔軟に対応してくれれば良いだけだとは思うけど…。

■ 失敗による事故等が起きたとき、失敗を次の成功へつなげるために、どのような知識化が必要かという部分は実例に即していて、なかなか参考になった。
 使われている事例としては、著者の研究室(著者は執筆当時、東京大学の教授だった)で生じた事故や、タコマ橋のような広く知られている事例などが含められている。そして、これらの事例から課題を捉え、解決策を得るまでの過程がいくつか紹介されている。

 考えてみると、一消費者としても、リコールなどを積極的に行っている自動車会社があるとすれば、「リコール品を大量生産している」と考えて敬遠したくなるのも人情だ。しかし、まったくリコールがなかったと思っていた企業が、実は「リコール隠し」をしていただけだったとすれば、単なるリコールの多寡でもって製品の品質を推量していた自分の愚かさに問題があるわけだ。

■ 最近、日本の「ものづくり」の人材の確保などを懸念する意見を目にすることが多くなっている。そういう時代だからこそ、技術上の失敗をバネとして次の技術へと繋ぐ心得を説いた本書の重要性があるのではないだろうか。

□ところで今回は、乱読日記として別の書籍を紹介する予定があったのであるが、逡巡の結果(それで更新がこの時間である)、そちらはいろいろと「問題」がありそうなので、パスとさせて頂いた。うーん、やっぱりちょっとあの本はまずいかな。そういう本なのです。

|

« [弁理士試験]特許法案内(13) | トップページ | 06年、弁理士試験結果 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 乱読日記[34]:

« [弁理士試験]特許法案内(13) | トップページ | 06年、弁理士試験結果 »