« 金属蒸発の悲劇 | トップページ | 乱読日記[34] »

2006年11月24日 (金)

[弁理士試験]特許法案内(13)

昨今、都市部で車を維持することが困難になっているそうです。いわれて見れば、近所の駐車場代は軒並み2,3万円だし、ガソリンは高騰したりするし…。そこで、カーシェアリングといって、レンタカー屋がメインになって会員を募り、一台の車を会員間で共有するしくみがもてはやされているとか。

▽ 需要が集中する曜日などがあると、車両が足んなくなったりしないだろうか、とは思うわけですが。有体物ですからねぇ。

さて、ありふれたマクラになりましたが、無体財産といわれる特許権も共有することができます。財産権ですから、民法の規定通りに共有を考えればいいわけですが、無体物であるために、例えば複数人で一斉に実施できるなどの特徴がありますので、特許法には特別の規定が置かれています。それが73条です。

□第73条 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定することができない。
2 特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。
3 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない。

 いいたいことは簡単で、

1.共有している特許権は勝手に譲渡してはいけない(譲渡先によっては各人の実施能力など経済関係に重大な変更があり得るので)
2.特約がなければ、各人は実施自由(むしろ、特約可能であることを言っている)
3.無断で実施権を与えてはいけない(許諾先によっては各人の実施能力など経済関係に重大な変更があり得るので)

 忘れないうちに書いておきますが、「質権の設定」の規定がある場合は、そのウラに必ず「質流れした場合」の配慮があることを忘れてはいけません。質流れになると、実質的に譲渡と同じ状態になるので、譲渡禁止の場合は質権設定も自動的に禁止となると考えられます。
 専用実施権について定めた77条にも類似趣旨の規定がありますね。

□第77条(3項、4項)
3 専用実施権は、実施の事業とともにする場合、特許権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。
4 専用実施権者は、特許権者の承諾を得た場合に限り、その専用実施権について質権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができる。

■共有の発生

 「特許権の共有とは、1つの特許権を2人以上で共同して所有することをいう。」

 これは吉藤による定義です。吉藤は、この定義に続いて、共有がどのようにして発生するかを述べます。もっとも吉藤の記載は丁寧に過ぎ、単に、(1)共同出願に係る特許出願が、特許査定された場合と、(2)特許権の一部譲渡が行われた場合に、共有状態が生じると言えばいいのです。

■民法

 民法上の規定としては、民法249条から254条が基本的に適用されるといいます。

□第249条 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。

□第250条 各共有者の持分は、相等しいものと推定する。

□第251条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。

□第252条 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

□第253条 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
2 共有者が1年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。

□第254条 共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる。

 弁理士試験で大事なのは250条(共有持分の推定)と、252条です。
 特に250条は、持分の定めがない場合は均等と推定するわけで、論文試験で持分が関係するケースでは記載を要する場合もあるでしょう。つまり、弁理士試験の論述試験で民法の規定を根拠条文に挙げる例外的なケースといえます。その意味で250条については、条文番号まで重要。

■2項の問題
 さて、規定に踏み入って、まずは2項。ここでは共有者の一人が、共有に係る特許発明を利用した利用発明をした場合です。この利用発明を実施するについて、他の共有者の同意を得る必要があるか、という問題があるわけです。しかしそこは、そもそも自由実施ができるわけですから、特約なければ、同意を得る必要なしという判断でよろしいでしょう。

■3項の問題
 こちらは、「模様メリヤス事件」(大審院昭和13年12月22日)という有名判決を踏まえて、共有者の一人が下請けに実施させるときに、必ず同意を要するかどうか、という問題があります。結論としては、「同意を得なくてもいい場合がある」ということで、その場合、というのは、
 共有者の一人のため、その指揮監督の下に、その者の事業として特許に係る物の製作その他の行為をする場合(その者の一機関(手足)に過ぎない場合)
ということになります。刑法などにいわゆる「道具理論」っぽい話です。人がいわば道具のように使われるケースということです。もっと例示的にいうと、賄賂の金を、事情を知らない秘書に採りにいかせたら、その秘書は犯罪者か、というようなことです。何の金か知る由もなく、疑う必要もないような額だったらどうでしょう。そんなことです。そんな「道具」と同じように使われる人についてまで、同意がいるの? というのがここでの問題点で、結論は上記の通り、道具(「一機関」といいます。この語か、または「手足」という語を出すことが重要)だったら不要、ということです。

一機関の条件については、列挙が必要です。暗記項目。
□一機関の条件

(1)権利者との間に工賃を払って製作せしめる契約の存在、
(2)製作について原材料の購入、製品販売、品質についての権利者の指揮監督がされていること、
(3)製品を権利者に全部引き渡し、他へ売り渡していないこと

です。吉藤は、このときさらに、契約があっても「一機関」側によって破られている場合、どうなるかを考えますが、ここでは長くなるので省略させて下さい。興味があれば、その旨コメントしていただければ、別途記載します。

■訴訟上の問題

 さて、もっとも大きい問題が、こちらです。
 一つには、共有者の一部が無効審判に対する審決取消訴訟を起こした場合、その訴訟はどう扱われるか、ということです。基本的には「必要的共同訴訟」と考えられ、共同でするべし、となります。
 また侵害事件については、差止請求と損害賠償請求との場合で分かれ、
 まず差止請求では
 「固有必要的共同訴訟」である、と原則を述べ、しかしながら、ある共有者の脱落により全体が権利行使不能になるのは、他の共有者の不利益になって受け入れられない、と問題点をのべ、そこで、差止請求権は「保存行為的性格」を有するから民法252条但書の通り、個々に可能とする考え方(紋谷説)があります。
 しかし、敗訴の場合は、権利行使者以外の者に既判力が及んでしまうから保存行為とはいえない、と反対を述べる立場もあります。この場合、持分権に基づく妨害排除請求と考えることで、権利行使者以外の者に既判力が及ばないようにすることが妥当(中山など)という考え方もあります。論文では後者のように「持分権に基づく妨害排除請求」という考え方を使う方が受けがよいです。
 なお、損害賠償請求(不当利得返還請求も同様)では、可分債権なので、個別に訴訟可能で問題がありません。

■「必要的共同訴訟」のこと
 必要的共同訴訟というのは、判断の結論が合一に確定するべきグループがある場合の共同訴訟のことです。固有必要的−というのと、類似必要的−というのとがあり、どちらも論文試験で記述の必要があるやも知れませんので、用語集(例えば「図解による法律用語辞典」が秀逸)などで確認しておくといいでしょう。

■ここから行きすぎ
 さて、時折書き混ぜている、「行きすぎ注意」の事項です。昨今の試験では、ここまで勉強する必要はないですし、ここまで勉強したら行きすぎというワケです。
 共有の問題にもそういう話があります。いわく、特許法の共有はいわゆる「合有」か、という論点です。
 上記紋谷説において、「特許権の共有は合有的性格を有する、だからその差止請求訴訟は固有必要的共同訴訟と考えられる」と原則部分が語られるので、こういう問題がおきます。これがまた、中山教授の本では「特許権が合有的性格を有するとの説があるが、誤りである」とバッサリ切り捨てられてます。こういう学者論争に巻き込まれても仕方ないとおもうんですが、受験機関では、ときおり、特許権の共有について、「共有」、「合有」、「総有」のどれだ、という議論が始まったりします。
 ここでいう狭義的な「共有」は、各自が対象物(ここでは特許権)を使用し、それから収益を得ているというモデルです。対象物の管理も各自が行っているような状態ですが、共有であることから一定の制約が課されている、そんな感じです。
 一方、「合有」は、対象物の管理が「共有体」というか、共有者全員の総意で行われるようになっているような状態です。共有関係の結合がより強い感じ。
 「総有」は、さらに共有体全体の力が強いケースで、個々人の持分権がないような状態です。

 こうしてみると、持分の譲渡などが禁じられている点からして、特許権の共有は「合有的性格」と言いたくなる気持ちも分かります。しかし、中山教授は、まさにそこを問題点として突きます。つまり、持分譲渡やライセンスが制限されているという表面的な議論で合有的というのは短絡である/民法でいう合有は、共同目的が存在するために譲渡や分割に団体的制約が設けられている/特許権で持分譲渡やライセンスが禁じられているのは、共同目的があるからではなく、専ら無体物であることの理由による/審判が固有必要的共同訴訟であるのも審決の合一確定の要請があるからで、合有的性格に基づくのではない…というわけです。
 個人的には、この場は中山先生に軍配を上げておきたいと思います。

参考図書:
 中山信弘 「工業所有権法(上)」

図解による法律用語辞典:図解だけでなく記述も簡明で、弁理士試験にも最適です

|

« 金属蒸発の悲劇 | トップページ | 乱読日記[34] »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: [弁理士試験]特許法案内(13):

« 金属蒸発の悲劇 | トップページ | 乱読日記[34] »