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2006年10月13日 (金)

ある統計

その昔、ある新聞社で、弁理士事務所ごとの特許査定率というのを計算して公表したことがある。特許査定率、というのは要するに、登録数を出願数で除したものだ。

▽まぁ、どこでも言えることながら、統計情報というのは読み方に注意しないといけない。

■そのときのこと
 登録率の最も高かった事務所はたしか、かなり高齢の方が一人で運営している事務所で、ほとんど100%ちかい登録率だったように思う。インタビューに答えて、この弁理士は、

発明がよかっただけだ

と、まともに受けていたが、当の記事は、よく分からない論評を載せていた。

 弁理士の発言は、一見、謙遜ともみえるが、心底思っていることだったろう。じっさい、発明がちゃんとしていれば、どうとでも権利になるものなんだ。

 ところで、この新聞社の登録率の計算の場合、出願件数が少ないほど登録数の支配率が大きくなるわけだ。極端なはなし、1件しか出願していなくて、それが特許になったとすると(商標事務所の場合、そういうこともないとはいえない)、登録率は100%になる。一方で、防衛出願を多くする企業を抱えていると、そもそも審査請求の率も低くなるから、登録率はうんと小さくなる。

まぁ、この種の統計はあまり意味がないといえば言え、しろうとくさい統計と思われていた。

■年次報告
 ところが、今年の年次報告(http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/nenji/nenpou2006_index.htm)において、「弁理士事務所関連情報」として、特許査定率の高い事務所と、記載要件不備率や新規性違反率の低い事務所と(いずれも分野別)が掲載されていて困る。

 噂では、さすがに事情を分かってるはずの特許庁がこれをやるなよ、と弁理士サイドから意見したら、リストの文字が小さくなったという冗談みたいなハナシが聞かれた。

 この報告では、特許査定率の分母は出願数ではなく、最終処分数(特許査定、拒絶査定、取下げ、放棄の総計)だから、出願数をつかうよりはちょっとはマシな統計となっている。しかしあまり適切な統計ではない、ということに変りはない。
 たとえば弊所の場合、設立3年目のこともあり、比較的早期に審査請求をしてくれるクライアントの分野では、各表に掲載されているものの、審査請求を3年ぎりぎりで行うクライアントの分野には(当然ながら未だ拒絶理由通知すらきていないので)掲載がない。

 また、記載要件不備や新規性違反といっても、ファーストアクション(一番最初にくる拒絶理由通知)のときに、これらが指摘されていたからといって、その事務所が悪い、とは一概にいえない。結局は、ちゃんと拒絶理由を回避できるように明細書が書いてあるかどうかだし、がんらい、審査というのは審査官と代理人、出願人、発明者がよってたかって「適切な権利」を設定していく作業のはずで、ファーストアクションの内容が重要なのではない。
 そのうえ、ファーストアクションの内容も良否がある。このあたりは、審査官の人柄や力量にもよるのであり、一般に代理人の問題として片づけているのはおかしい。統計では、そういう個別的な部分は捨象される(だから統計なんだけど)ので、問題になるのだ。

 要は、この不備率の統計に掲載がないから良い事務所、とは言えないし、逆に掲載があるから悪い事務所、ともいえないということである。

■統計
 「統計はこうしてウソをつく−だまされないための統計学入門」などという本もあるように、統計を誇大に考えると、結論のこじつけがいくらでも効く。
 せめて特許庁や経済産業省としては、この統計がどういう意味をもっているのかなど、分析の一つでも書いておいてくれれば、まだしも誤読される可能性が低いと思うんだが、どうだろうか。

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