« ある統計 | トップページ | 乗り換え案内 »

2006年10月14日 (土)

[弁理士試験]特許法案内(7)

いかんいかん。週のはじめが祝日だったことと、週半ばで委員会活動のピークがあったことが災い(?)して、金曜日の記事を投稿するのを忘れて、来週分の(やや未完成の記事を)掲載しちゃった。掲載しちゃった分は、もうしようもないので、そのままにして、今日土曜日に、金曜日分の記事を掲載します。フォローアップではないです。

▽ さて、ここまでに29条1項をちょっと精査しすぎた感がある。流れから行けば、ここで29条2項(いわゆる進歩性)を説明するべきであるが、もういちど全体的な立場に戻ってみたい。
ここまでの道草を辿るにあたっては、一応、次のような筋道を通ってきたつもりなのである。

 すなわち、当初は、わが国の特許法の特色として、

  • 保護と利用のバランスを図ることが至上目的であること(1条)、
  • 国家による登録によって保護されること(66条)、
  • 特許権は、独占排他権として構成されること(39条)、
  • 保護対象として、「新規なる」発明を保護してきたこと(特許要件、29条など)、

を述べてきました。ここで少々脱線して、29条の2を説明し、審査の対象や複雑な条文の読みこなし方を説明したつもりです。

その後、29条の2を折角説明しましたので、導入の経緯からその趣旨というあたりまで説明しました。ここで出願公開や審査請求という制度の意味を併せて述べてきたつもりです。次に、29条に戻り、1項の柱書きと、各号とをそれぞれ分説してきました。

そこで今回です。

 今回は、また巨視的な視点に戻って、特許権のことを書いてみたいと思います。

■「権利」の論文
 さて、弁理士試験において「XX権について説明せよ」のような一行問題が仮にあったとします。じつはその記載内容はかなりよく検討され、定型的になってしまっています。

  •  性格、性質(法律論を云々するのに使うキーワード)
  •  発生
  •  主体、客体
  •  効力
  •  変動(誰かにあげるにはどうするか、など)
  •  消滅(どうしたらなくなっちゃうのか)
  •  その他(他の権利との相違点など)

 特許権の場合を簡潔に書けば、

 性格、性質:独占排他性があり、物権的性質を有する、といわれます。
 発生:特許権の設定登録により発生(66条)
 効力:業としての実施を占有、他者実施を排除
 変動:移転登録により移転。原則、登録が必要です。
 消滅:存続期間満了により消滅、
    独占禁止法100条による取消、
    相続人不在による消滅(将来効)、
    放棄による消滅(将来効)、
    年金不払による消滅(基本的に将来効)、
    無効審判確定による消滅(原則遡及効)、

 …などとなるでしょう。
 ここで論文として重要なことは、登録要件に関する問題は論じないということです。登録要件は、登録以前の問題であって、権利の問題ではないからです。「特許権」は、登録以降の問題なので、66条より後半の問題で論じることになります。
 このように、ある問題が、登録前の問題か、登録後の問題かを峻別することが題意を捉えることの成否に関わってしまう場合があります。題意をそれた論文答案は、それは答案ではなく、単なる解説になりますので、試験での高得点が期待できません。

■今回は、特許権の効力の側面にスポットライトを当ててみましょう。
 原則は、68条にあるとおりです。

「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する」

のです。この「専有」につき、

  • 積極的効力
  • 消極的効力

のふたつの側面で説明するのが一般的です。

□積極的効力(独占的効力)、というのは、実施を専有する、独占的実施権の側面での効力です。
 「業として」というのが入っていますが、これは「個人的・家庭的実施を排除する趣旨である」、という程度の説明がされます。理由をいうならば、「特許法は産業立法であり、個人的・家庭的実施にまで効力を及ぼさせることは行きすぎ」という程度で十分でしょう。
 どんなのを「業として」というかについては、基本書に任せますが、こちらはどちらかというと1次試験のネタです。
 また、特許権に係る発明を実施する行為、つまり「特許発明の実施」の意義は、2条に規定があります。法律では、「物」の発明、「方法」の発明、「物を製造する方法」の発明に分類しています。とくに方法について、単なる方法(単純方法)と、製造方法とに分類していることに注目して下さい。これらでは実施の範囲もちょっとだけ違い、実は現実社会においてはこの違いがとても大きな違いとなって現れます。

□消極的効力(排他的効力)、というのは、他人による実施を排除する、排他的権利の側面での効力をいいます。こちらは、救済規定(民事的救済と刑事的救済)や、例外(消尽論)の問題です。「権原なき第三者の実施の排除」をどのようにするか、を論じていけばいいわけです。

□制限
 さらに特許法の効力にはいろいろな理由から制限が課せられています。技術的発展に資する実施、つまり試験または研究のためにする実施、国際的交通の便を考慮しての制限、人道的な側面からくる制限(69条1,2,3項)などです。

■特許法の構造としては、これらを述べた上で、権利範囲の画定についての議論(70条以下)に移っていきます。こちらはこちらで非常に重要ですので、項を改めていきたいと思います。基本的には吉藤に留めを刺すのですが、入手しにくい現状を考えると、多少網羅的に記載されているものとしては、「特許の知識 [第8版]」があります。内容にやや偏りがある気がしますので、試験用としてこれ一冊で十分とは思いませんが、ある程度基礎知識をつけるのには役立つと思います。

△さて、初学者の方はここまでで、ストップにしておいてください。ここから先は、いわゆるベテラン組の領域です。

■勉強が進んでくると、特許権は、専用権なのか、排他権なのか、という議論があることを勉強することもあるでしょう。この問題は、利用発明(72条)を68条との関係でどう捉えるか、というときに出てきます。
 例えば、特許権は専用権というならば利用発明の規定が理解できず、従って72条は68条の例外規定だと解するしかなくなり、一方排他的権利ならば、72条は68条の例外規定ではないと解することになります。この議論は、特許権の議論をする際に、知っていると書きたくなってしまう内容なのですが、「特許権の効力について問題となる場合について」のような出題であればともかく、おおかたの事例問題や、「特許権について説明せよ」くらいの問題では、権利に係るいろいろな記載項目のうち、効力の点に多くを割き過ぎる結果になって、バランスの悪い答案になってしまいます。要するに、「特許権は専用権か排他権か」などという問題を勉強するのは、多少勉強のしすぎなのです。

 この論点を知らなかった人は、勉強のしすぎ、を知った上で、以下の解説を読んで下さい。
 この問題は、同一の発明について特許庁が間違えて権利を付与してしまった場合の議論で現れます。ダブルパテントの問題、ということです。

 特許庁の誤りのように、行政のやることに間違いがあることを、「行政行為に瑕疵がある」と言ったりするわけですが、ここでの問題は、行政行為による特許権にダブルパテントという瑕疵があると疑いがあるとき、後願特許権についての有効性判断を特許庁に優先的に認め、特許庁で無効とされるまでは一応、先願特許権者や、第三者、国家機関等も当該後願特許権が有効であると扱うべきとする力(後願特許処分の公定力、といいます)があるか、ということです。
 仮に公定力があると考えると、先願特許権者と後願特許権者の実施をどのように行わせるかが問題になります。このように本来、排他性を有するべき同一の権利が重複してしまい、相互に利益調整を必要とする状態が「抵触」と呼ばれる状態です。

 さて、特許権は排他権とする立場では、発明者は本来自己の発明を自由に実施できる権利を有し、特許権は他人に発明を実施させない排他権にすぎない、として特許権によって積極的に実施ができるようになるわけではないと解します。そうすると、後願特許権者は、先願特許権者の排他権によって発明が実施できないことになります。もっとも、第三者の実施は排除可能という立場にたちます。例えば、先願特許権者を甲、後願特許権者を乙とするときに、第三者丙が実施しているとすると、甲も乙も、この丙の実施を差し止める権利はある、ということです。仮に、乙の権利が無効であれば、乙は丙の実施を排除できないことに注意して下さい。この排他権説では乙は丙の実施を排除できます。ここでは公定力ありとしているから、一応、有効として扱うからなのです。
 この立場では、乙が自己の特許発明を実施するには、甲の許諾が必要になる、という結論に至ります。
 なお、このように排他権と捉えると、72条を68条の例外規定ではないと解釈することになります。

 一方、特許権は専用権でもあるとする立場では、特許権の性質から排他性を認めるとともに、専用権でもあると考えます。この立場によると、72条を68条の例外規定と解することになります。

 この立場では、さらにダブルパテント(抵触)が利用の一種であるか否かにより見解が分かれます

 仮に抵触は利用の一種でないとすると、特許法上に規定がないこととなり、後願特許権が無効とされない限り(特許庁でのみ判断としていることに注意)後願特許権も有効となり、後願特許権者も自由に実施ができることになります。上の例で言えば、甲の許諾など必要なく、乙は自由に実施できることになります(放任説)。
 一方、利用は抵触の一種だ、と考える立場もあります。その根拠は、「利用発明ですら実施許諾を要するのに、同一発明は当然に許諾を必要とする」というもの(禁止説)で、衡平の観点からでたものだ、といえます。
 なお、禁止説には、80条(中用権)の規定が理解できない、という批判がありますが、これについて禁止説を採用する人たちからは、中用権は80条所定の要件を具備する後願特許を対象としていて、自由に実施できるとするのは不合理であると反論します。また、禁止説に対しては実質的に無効というに等しく、公定力ありとする前提に矛盾するという批判もありますが、これに対しては、後願特許権者の実施可能性は有効性に関わりなく、先願特許権者との関係において権利行使が制限されるにすぎないと反論しています。
 おそらくは禁止説が通説でしょう。

 なお、公定力がないとする見解も当然あり、この場合は「当然無効」ということですので、後願特許権者は、無効な権利者であって、当然にその実施には先願特許権者の許諾が必要となります。

長くなりました。ここまでにします。

|

« ある統計 | トップページ | 乗り換え案内 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: [弁理士試験]特許法案内(7):

» タネ占い [占い相談のご案内]
タネ占いは癒し系風のかわいいキャラで描かれた本格的な占いです。 [続きを読む]

受信: 2006年10月26日 (木) 08時24分

« ある統計 | トップページ | 乗り換え案内 »