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2006年10月20日 (金)

[弁理士試験]特許法案内(8)

前回から「特許権」の側面についての特許法の規定を検討しています。もっとも、純粋に法律に則って…、ということですと、特許権に直接関わる規定というのは数が少ないので、今回は条文と「つかず離れず」な状態で、技術的範囲の解釈、という重要な問題に触れたいと思います。

▽ 技術的範囲、というのは、特許請求の範囲の解釈の問題でもあり、侵害訴訟の面でも重要な観点です。

 さて、特許権の技術的範囲については、先だてからよくご紹介している、竹田和彦の「特許の知識 [第8版]」や、竹田稔の「知的財産権侵害要論 特許・意匠・商標編」などにおいても、解説されている内容ではあります。しかしながら、例えば竹田和彦氏の書では、原則であるはずの文言侵害に関する解釈よりも、むしろ例外的である均等論の解説に重点があるように思います。「知的財産権侵害要論 特許・意匠・商標編」も、弁理士試験向けとして十分とまでは言えないようです。

■吉藤のまとめ
 この点はやはり、往年の吉藤、「特許法概説」にとどめをさします。吉藤の述べる技術的範囲の基準について、項目だけでも列挙してみましょう。

A.一般的基準
1.原則的基準
・請求の範囲基準の原則
・詳細な説明参酌の原則
・出願の経過参酌の原則
・公知技術参酌説
・最狭義説
 クレーム最狭義説
 公報最狭義説、公知事実除外説、実施例要旨説
・意識的除外論、意識的限定論
2.具体的基準
・認識限度→認識限度論
・作用効果→作用効果重視説、作用効果推認説
・構成要件の一部を欠くもの→不完全利用発明
・内容が不明確な発明について
・実施例→実施例不拘束の原則
・進歩性
・利用発明→先願優位の原則
・均等論
B.参考的基準
・要部説、中心説、核心説→構成要件説に対立する説
・中心限定主義と周辺限定主義→迂回発明論・不完全利用発明論

…いかがでしょうか。とにかく、請求の範囲に記載された内容を参酌することが原則なのです。この原則自体は、特許法70条に明定されています。

□第70条(第一項)
 特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。

 この規定から、
 1.クレイムと実施例が矛盾するときは、クレイムにより範囲を定める。
 2.実施例に広い発明を記載しながらクレイムに狭い範囲を記載するときは、狭い範囲の技術的範囲しか主張できない。
 3.クレイム中に複数の要件が記載されていても、各要件が各々独立しているとする主張(クレイムの一部だけでも権利という主張)は許されるべきでない。

というような解釈が生まれてきます。

 またクレイムの記載は比較的簡潔にされていること、及び、その文言の解釈が困難であることにかんがみて、補助的に明細書の記載等を参照するべきことを規定したのが、70条2項に記載の内容です。

□第70条(第2項)
 2 前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。

 原則はこの通りなのですが、特許権及び対象物件、公知技術の関係など多様な基本原理とも照らし、妥当な結論を導くべきであるとの観点から、原則に修正を加えていきます。

 ここから少々難しい話に入ります。

 まずクレイムを限定的に解釈する方向として、出願の経過参酌の原則、公知技術参酌説、最狭義説、意識的除外論、意識的限定論などというものがあります。

 出願の経過参酌というのには、2つあります。一つは、クレイムでの意義が一義的に定まらないときには、明細書や公知技術などをも参酌して解釈するというもので、公示されている資料を勘案していくというものです。また二つ目は、出願人が、出願の経過において示した認識や知見として、要するに意見書などでの主張も参酌していくというものです。
 後者のものは、包袋禁反言(file wrapper estoppel)とも呼ばれます。このあたりは、もう、特許法の問題ではないのですが、より一般的な法理として存在しています。
 ようは、出願の審査段階等で出願人が述べた陳述に基づく限定があり得るこということです。具体的な例でいえば、意見書において、「このXXという文言は、コレコレの意味であり」と書けば、その意味に解釈されることがあるのです。

※もっとも、審査経過での出願人の陳述を出願人の意思認識という主観によることなく客観的に評価し、先行技術に基づく特許の拒絶を回避するのに不必要な過分の減縮であれば、後の侵害訴訟において、その陳述内容に禁反言の適用はない(信義誠実の原則)との考え方もあります。
 これは、出願経過には、公示制度が設けられていないこと、そして、特許権の設定登録は、出願人の主観的意図を離れた客観的存在であって、明細書の解釈から多義的解釈が可能であり、公知技術を参酌しても技術的範囲を確定できない場合に限るべきであるとの考えから出たものです、が、まぁ、ここまでは最近の弁理士試験の範囲とは言い難いでしょう。

 クレイムが立てられた時期の公知技術も併せて参酌するべきであるとの説が、次の公知技術参酌説です。明細書は出願時の技術水準を前提に記載されるべきであり、かつ発明は元来出願時の技術水準を超える有用な技術的思想であるからこそ特許されたので、参酌は当然[当然説]と言われます。

 しかし、この公知技術参酌を徹底して行うと、クレイムをさらに限定して解釈していくことができます。これが最狭義説へと繋がっていきます。いわく、詳細な説明や出願経過を参酌して理解される意義に拘泥せず、クレイムが公知技術そのものであれば、公知事実が特許発明の技術的範囲に属しないよう解釈すべき[最狭義説]ということです。
 最狭義説には、反論もあります(禁止説)。その根拠としては、もし公知技術参酌が許されるなら、公知事由の発見ごとに権利範囲が変動して常に浮動の状態に置かれることになる、ということと、全部公知ならば権利範囲のない権利が出現するに至ることから明らかなように、公知事実の参酌は不合理であるということが言われています。

 もっとも、クレイムが公知技術そのもの(全部公知)ということは過誤登録ともいえ、現代であれば、特許法104の3第1項の話でケリがつきますので、最狭義説の出番はあまりないともいえるかも知れません。旧来、訴訟という司法手続では、行政処分である特許処分についての妥当性までは踏み込んで解釈せずにいました(無効審判、訂正審判が確定するまで有効なものとして扱わなければならない=行政行為の公定力)ので、こうしてクレイムの解釈論で頑張るわけです。

 さて、今回は少々細かい部分まで話がいきました。次回は具体的基準について述べていきたいと思います(むしろこちらの方が事例的な問題で有効と思います)。

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コメント

estoppel?

投稿: MM | 2006年10月20日 (金) 14時00分

MM, Thank you for your comment.

You're right. It is "estoppel."
I did just correct.

投稿: ntakei | 2006年10月20日 (金) 15時10分

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