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2006年10月27日 (金)

[弁理士試験]特許法案内(9)

前回は特許権の技術的範囲の基本的基準について、吉藤を参考に説明してまいりました。
今回は吉藤が具体的な基準というところについて説明をしていきたいと思います。これはもう、「特許法案内」というタイトルが妥当かどうか分からない領域ですが、まぁ、このタイトルで始めてしまいましたし、特許法関係ではありますから…。

▽ 吉藤の具体的基準についてもう一度挙げてみます。
・認識限度論
・作用効果重視説、作用効果推認説
・構成要件の一部を欠くもの(不完全利用発明)
・内容が不明確な発明について
・実施例(実施例不拘束の原則)
・進歩性
・利用発明(先願優位の原則)
・均等論
です。

■認識限度論
 認識限度論は、発明者の認識する発明以上にその権利範囲を広げて解釈してはならないとする説です。とはいえ、発明者の認識限度は、客観的には「発明の詳細な説明」と、出願経過での「意見書」等で判断するとされ(まぁ、それ以外に方法なさそうですが)ます。吉藤は、結局は詳細な説明参酌の原則や、出願経過参酌の原則に関する具体的な基準、として位置づけられると、結論付けています。
 認識限度論については、利用発明との関係では適用除外されるとされています。利用発明については認識のあろうはずがないので、この説を適用すると利用発明は先願発明の権利範囲に属しないと結論することとなり、72条の趣旨を没却して適切でないから、というのです。私の個人的な意見をいえば、その根拠たるや曖昧としか言いようがなく、この説のいわゆる具体的基準自体が適切でないのではないかと思いますが、これは個人的意見。試験で述べるような性質のものではありません。

■作用効果重視説
 作用効果が特記されていれば、その技術的事項は発明構成上の必須要件と解するべきであり、その作用効果を奏しないものは発明の技術的範囲に属しない、という説です。作用効果を明細書で強調し過ぎるとよくない、と、明細書作成で一度は誰かに戒められるときの根拠となる説ですね。もっとも、作用効果が書かれていないといっても、その作用効果が当業者において知り得るものであれば、当該作用効果を奏しないものは発明の技術的範囲に属しない(作用効果推認説)というものもありますので、上の戒めというのも限度がございます(それに作用効果を適切に書かない明細書というのは読みにくいものなので、書かないことを徹底し過ぎると却って問題を引き起こすことも。この辺のバランスは、たいへんに難しい)。

 この基準の恐ろしいところは、判決例も数多いことです。例えば吉藤で筆頭に挙げられる「精麦装置」事件(昭和45(ネ)564、無体集4巻1号384ページ=裁判所のページからPDFで判決文をダウンロード可能)では、被告の精米装置が、原告の精麦装置なる特許発明を侵害しているとしていると主張しています。原告の論旨は、麦とは書いたが、米だって同じだ、と均等のような主張をしているのですが、裁判所は…

 控訴人は、本件考案における「精麦装置」とは、狭義の精麦に限らず、精米等を含む精殻装置を意味する旨主張するが、…中略…、その実用新案の性質、作用及び効果の要領の項において、本件考案の目的及び効果の説明として、…中略…との各記載のあることが認められ、これらの記載と前掲当事者間に争いのない本件考案の構成とを総合してる考えと、本件考案は、特に麦粒についての精白効果を挙げることを強調し、そのための効果的な技術的手段を供するものとして、精麦装置に限定して権利を附与されたものと解すべく、これをもつて精米の概念をも含む精殻装置の構造と解することは、その権利範囲を不当に拡張する結果となり、妥当性を欠くものと解すのが相当である。

 と判じたものです。
 作用効果の記載を以て、麦限定、と解釈したものであります。

 同じく、一見、形式的にはクレイムの構成を充足していても、作用効果を奏しない範囲にまでクレイムの技術的範囲は及ばないとした判決(パチンコ球流通樋事件)というのもあります。

 パチンコの球をなるべく高速に流通させるために、樋の内側断面形状を円弧状とせず、V字など、角形状としたというもので、これに対し、侵害品として訴えられたものは(記憶によれば)断面U字状のものです。判決では、明細書において「樋の内側とパチンコ球との接触面」が広いほど流れに対する抵抗が大きくなるとし、流通樋全体に亘り角形状とすることなどが書かれていました。裁判所は、被告物件には、一部に断面が角形状でない部分(たしかU字状部分)があるとして、非侵害の結論をだしたものです。

 また、理論的には奏するかもしれないが、クレイムの構成では実用上奏し得ない作用効果を奏しているものは、クレイムの技術的範囲外とする考え方などもあります。もっとも作用効果を重視する余り、作用効果が共通しているからといっても構成の異なるものにまで権利範囲は及ばないのは当然です。

■構成の一部を欠く場合
でも権利範囲に属すると解釈するケース
 このケースには、均等論と不完全利用論というのがあります。もっとも不完全利用については、かなりマニアックなものです。要は、(a)特許発明と同一の技術的思想に基づきながら、クレイムの構成要素のうち比較的重要度の低いものを省略等したこと、(b)特許発明に基づいて省略等することがきわめて容易、(c)省略等することで特許発明よりも効果が劣ることが明白(技術的完全を期する場合は省略するはずのないもの)、(d)改悪といっても、なお従来例よりも作用効果上特に優れていること、などを要件として侵害を肯定していきます。この趣旨は、結局、特許発明の特定の甘さにつけ込んで、改悪したものを製品として製造するという悪質な侵害を牽制するためということができるでしょう。現在、この説については主張されることもなく、試験において可能性がないとはいえないものの、出題の可能性はほとんどないと思います。
 均等論については、ちょっとだけ後述しましょう。

■内容不明確な発明については、技術的事項が特定できないので、その発明の構成を充足するものはない、ということになります。

■実施例不拘束の原則
 これは要して言えば、実施形態の記載のみに限定して技術的範囲を定めてはいけない、というもので、請求範囲基準の原則からして当然のことです。ただし、実施例要旨説という説もあり、実施例限定で解釈するべしという基準もないとはいえません。これについては、クレイムが実施例で十分サポートされず、クレイムの記載より狭い発明しか実施例に開示していないような場合があります。またクレイムが全部公知であったときや未完成発明である場合も、実施例限定の解釈をした例があるようです。

■進歩性、利用発明
 クレイムされた特許発明からみて進歩性のない技術であっても、クレイムと違う技術事項であれば、クレイムの技術的範囲には属しないという説です。まぁ、当然といえるでしょう。もっとも、クレイムされた特許発明を思想上利用する場合など利用発明に相当する場合は別、とされます。利用発明については、稿を改めたいと思います。

■均等論
 大分長くなってしまいました。均等論については、解説も多いですので、簡単にしておきます。一般にクレイムは文理に基づいて解釈されます。これを厳密に貫くべしというのが、文理解釈論というものです。その根拠は「70条1項の「基づいて」をいたずらに拡張解釈することによって法的安定性を害することは許されない」ということで、まぁ、そりゃそうだろう、と誰もが思うところでしょう。
 しかしながら、具体的妥当性を欠く場合もあることから、

1.発明の本質でなく、
2.置換により発明の目的を達成し、客観的に同一の作用効果を奏し、
3.置換について当業者が侵害の時点で容易に想到でき(侵害時説)、
4.対象製品などが出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから容易に推考できず(広義の公知技術除外論)、
5.請求の範囲から意識的に除外されたなどの特段の事情がない(意識的除外論)、

 といった場合には文言範囲から均等と見て、侵害を肯定する。これが今日にいう均等論というものです(平成6年(オ)第1083号=いわゆるボールスプライン事件)。
 ここで重要な要件は、置換容易性及び置換可能性ですが、この種の議論はどこでも見られますので、敢えて受験生としては行き過ぎ感のある論点だけ述べておこうかと思います

 それは、置換がいつの時点で想起できた場合に均等を認めるべきか、ということの論点です。置換容易性の判断時ということですが、出願時において容易であったことを要するとする説(出願時説)と、侵害の時点で容易であればよいとする説(侵害時説)とがあります。上の判決は侵害時説を採っています。

 出願時説の根拠は、「出願時の技術水準を基準に特許要件を判断する特許法の趣旨、及び均等論の趣旨から当然に出願時を基準とすべき」ということです。上の判決がでるまでの多数説でした。一方、侵害時説の根拠は、「不当な侵害からの保護を目的とする均等論が実質上意味をなさなくなる場合が生じる」ということになります。

 侵害時説の立場から、均等論を認めるべき趣旨を書けば、

 出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難。相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を出願後に明らかになった物質・技術などに置き換えることによって、特許権者による権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明への意欲を減殺することとなり、特許法の目的に反するばかりか、社会正義に反し、衡平の理念にもとる結果となる。

 ということになりますが、出願時説では、「将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難」等の理由付けが使えなくなります。

論文は論理を一貫させて、ということです。この、論理を一貫させるべきことは、受験生の誰でも知っておくべきことがら。上の各説とその相違点は別に知らなくても、ボールスプライン判決を知っていれば、何の問題もないと思われます。

 長くなりました。今回は、ここまでに。

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