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2006年10月10日 (火)

軌を一にするはなし

特許など、知的財産権をめぐる条約は、各国の思惑を反映して一様に定まらないのが普通みたいだ。特に大きな反対勢力は米国で、これは米国の特許権に対する考え方が他の国と大きく違っていることに基づく。だから、ある程度の相違は仕方がないといえる。

▽ そういうわけでSPLT(実体特許法条約)について、米国が合意の方向※に入ったというのは大きいニュースだった、というのはわかる。だけどね。国内の某大手経済新聞の見出しは酷すぎて、ギャグにもならない。
「出願優先に統一」
…なんのことだ。

※しつれいしました。SPLTは、まだ合意の段階でしたね。米国が批准手続きに入ったのはPLTのほうでした。自分こそ、「なんのことだ」。

■そもそも世界統一条約制定の試みは、1883年のパリ条約のころからの夢であった。
 パリ万博開催に際して、出品者が発明が盗まれることを怖れる結果、先端技術の出品がされなくなる、という事態を防止する目的ではあったが、その目標は世界統一条約であったという。
 この試みはご存知の通り、各国の譲歩が得られずに、そのまま調整法としての役割にまで減退されてしまう。しかし、その精神だけは、パリ条約に込められている、

□第19条 特別の取極
同盟国は,この条約の規定に抵触しない限り,別に相互間で工業所有権の保護に関する特別の取極を行う権利を留保する。

特別取決めを介して、パリ条約の及ばない範囲がカバーされることを期待した、後世に夢を託した規定である。

■PCT(特許協力条約)は、米国主導で作成されたと聞く。
 むろん、実体的な側面については、この条約でもほとんど触れられていない。この条約は、出願の手続を統一しようという、「方式統一条約」だからである。パリ条約19条にいう、特別取決めの一つである。この流れは、1985年以来検討が続けられている特許法条約(PLT)に続く。PLTは、さらなる手続的統一を図ろうという条約である。

■前二者とは異なるが、世界貿易機関におけるTRIP協定では、パリ条約を遵守しつつ、それを超える保護を打ち出そうという「パリプラス」アプローチを採用する。また最恵国待遇※1を規定し、特定国家間で不平等な協定を持ち出さないよう牽制している。
 パリ条約が、加入国の低迷を怖れて内国民待遇※2に留まるのに比べると、多少の進歩といえるかもしれない。

□※1 最恵国待遇
 ある国(A)において、何らかの事柄で最も優遇される国(B)があるとして、当該国(A)が、他国に対しても、その国(B)と同じだけの待遇をするべき旨の規則。

□※2 内国民待遇
 ある国(A)において、A国の国民に与えている保護等と同等の保護等を、他国民に対しても与えるという旨の規則。


■SPLT(実体特許法条約)

 米国が先発明者主義に拘る限り、実現はないと言われてきた条約であり、米国という国がある限り発効はないだろうとまで諦観されていた条約である。これがいま、ちょっとずつ前進し始めたというのだから、意外ではある※。

※ もっとも、米国についての問題といえば、先願主義とヒルマー・ドクトリンの問題くらいなものであったし、その点、米国もよく理解していて、SPLTに盛り込むこと自体は問題視していなかったともいう。

■こぼればなし

 最近の米国は、改正法を始めとして動きがいろいろ大きい。
 今回のドラスティックな改正については、

長官は実務の経験のない人だし、そんな人が、実務知識のない
外部コンサルタントに(出願件数滞留などの)解決を依頼しやがってね。

と、いう噂が聞こえてきた。本当なのかね。
 また改正法発効のアカツキには、

合衆国の法律の立法過程をちゃんと踏んでないという理由で

 訴えてやる(誰を?)、というグループがあるらしい。いずれにしろ、あの国は暴れ馬のようなものなのだ。このSPLT合意についても、どのようになるやら…。

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