« ipod with Game? | トップページ | でんき予報 »

2006年9月15日 (金)

[弁理士試験]特許法案内(3)

まさか、とは思うのだが、この記事を読まれている方のなかに、弁理士試験を受けるかどうかは分からないが、特許法というのを知っておけば、自分で発明したときに有利なんじゃないか、という程度に考えている方がいるとすれば、ここで展開している一連の記事は、あまりお役に立ちそうにはないと思う。「さわり」にちかい部分で、概要を知りたいならば、次の本が役立つ。多少古くなっているかも知れないので、弁理士試験向けにどうかとは思うが、知識だけあればという方には充分な内容である(おそらく特許事務所の事務員の方々にも充分な内容であろう)。

▽さて、前回は先願主義の規定について簡単に見てきました。「簡単に」といったのは、試験向けとしてはまだ言い足りないことが多過ぎるからですが、そのまま39条の説明を続けるよりも、少々観点を変えるために他の条文をご案内し、それからまた39条へ戻りたいと思います。

■特許法上最悪?
今回は、特許要件として29条まわり、特に特許法において最悪に分かりにくいんじゃないかと思われる「29条の2」について見てみたいと思います。ちなみに、「X条の2(英語でいえば、article xx-bis の bis)」は、最初に連番でついたX条と、X+1条との間に押し込んだ条文のことです。X条の2と、X条の3との間に押し込む場合は、X条の2の2…というようにどんどん付け加わる。…脱線は、ここまで。

■29条の2の規定

さて、29条の2、条文を抜きだして書いてみましょう。

□第29条の2

 特許出願に係る発明が当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録出願であつて当該特許出願後に第66条第3項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した特許公報(以下「特許掲載公報」という。)の発行若しくは出願公開又は実用新案法(昭和34年法律第123号)第14条第3項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した実用新案公報(以下「実用新案掲載公報」という。)の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(第36条の2第2項の外国語書面出願にあつては、同条第1項の外国語書面)に記載された発明又は考案(その発明又は考案をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合におけるその発明又は考案を除く。)と同一であるときは、その発明については、前条第1項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。ただし、当該特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願又は実用新案登録出願の出願人とか同一の者であるときは、この限りでない。

初見では、何言ってるんだ、という条文じゃないでしょうか。意味が分かるまでには苦労しそうです。例のごとく規定をバラしてみましょう。

 まず、一番最初には、規定の適用条件が書かれてます。
 すなわち、

特許出願に係る発明が、その出願の日より前の特許や実用新案の出願であって、特許や登録の公報の発行、公開されたものの出願当初の明細書、請求の範囲、図面に記載された発明、考案と同一である場合

ということです。
 前回見ましたように、「特許出願に係る発明」というのは、特許請求の範囲に書いてあることをいうのでした。今回は特許要件の条文ですから、ある出願が特許できるかどうかを見ているわけです。つまり、この規定では、特許できるかどうかと注目している出願の明細書(発明の詳細な説明に記載された部分)の内容は関係ないのですね。

 そしてその注目している出願の「発明」が、それより前に出願されていて、公報発行のない状態、つまり公になっていない状態にある特許や実用新案の出願の請求範囲、明細書、図面、に書いてある発明、考案と同じだったら、と言ってます。

 もう少し詳しく見ると、時期的な要件と、内容的な要件とを言ってますから、ちょっと整理してみましょう。

69152_1

 まずは、時期的なほうです。A出願に注目してください。いま、29条の2をつかって、このAを拒絶しようとしています。
 B出願は、A出願よりも前に出願されていますが、A出願の時点では公開されていません。A出願よりあとに公開されました。
 この状況下では、B出願の内容は、Aの出願の時点で公知(公に知られた)とはいえませんから、「新しくないじゃん」という拒絶ができない(Bが公になっている、として29条1項の拒絶ができない)わけです。
 また、同じような状況ですが、公開前に特許がされ、「登録公報」というのが発行されることもあります。

69153

 稀ですが、こういうこともないわけではありません。この図でも、登録公報発行よりも前にA出願があります。B出願の内容が公になっていたとは言えないのです。ただし、この場合はタイミングによっては、公開はなくなります(規定がありますね。わかりますか?)。

 審査請求の制度がなければ、Bが先に審査にかかり、例えば登録されてしまえば、あとは先願(39条)の問題ですから、Bのクレームと、Aのクレームとに重複がなければAもBも登録されます。かりに、Bが別の理由で拒絶されてしまうとすると、AとBとが同じクレームならば、Bが拒絶されたのと同じ理由でAを拒絶できます。AとBとのクレームが違う場合は、Aのクレームによっては特許になります。
 審査請求、早期公開という制度があるゆえに、仮にBが審査請求されないと、AとBとのクレームが同じであっても、後出しのAが登録されることになってちょっと不都合ですね。そこでAを拒絶しなければならない。

 次に29条の2の内容の側面を見ましょう。

69151

      ※ C:クレイム、S:明細書

 29条の2は、「みなし公知」とも呼ばれます公開前、登録公報発行前だけど、公になったものとみなしてしまおう、という考え方です。これによると、特許請求の範囲(実用新案の場合は、実用新案登録請求の範囲)、明細書、図面の全体が公になったものと考えることができます。したがって、Aのクレームが、先に出ているBの出願の、最初にあったクレーム、明細書、図面のどれかに書いてある場合は、Aを拒絶します。
 ここまでの時期的、内容的な要件が、
「特許出願に係る発明が …(中略)…と同一であるときは、」
までに書いてあったのです。

■括弧がき
 いや、かっこの中が、まだですね。とくに、

(その発明又は考案をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合におけるその発明又は考案を除く。)

ってのは気になりますね。これは、Aの発明者の発明が、Bの出願明細書に書いてあったら、それで拒絶したらAの発明者が可哀想じゃないか(こういうのを「酷だ」といいます)という考えに出たものです。

 例えば、親子関係の会社で、Aの発明者甲と、Bの発明者乙とが共同で研究している場合を考えましょう。甲さんは親会社Pに勤務していて、乙さんは子会社Fに勤務してます。さて、乙さんは甲さんから発明aを守秘義務契約の下で聞き出して、なるほどこれを使えばと考えて、実験した結果、発明bができました。
 乙さんは、この発明bをクレイムに書きます。明細書には、発明aの内容と、それを利用してできた発明bを書きます。発明aの説明を書かないと、発明bの説明がしにくいので、発明aのことも書いちゃいました。乙さんは、さっさと書き終えて出願をします。なお、このとき出願人は、職務発明規定のため、会社Fになるとします。
 一方、甲さんは、発明aについての明細書を丁寧に仕上げます。甲さんの出願原稿には、クレイムに発明aが書かれます。また、明細書には、発明aの説明が書かれます。ところが、丁寧に書いていたので出願が乙さんより遅れました。が、まだ乙さんの出願は公開も、特許公報の発行もされてません。あ、それから甲さんの出願も、職務発明のため、会社Pが出願人になりました。

 この場合、よく見ると、日にちの要件も、内容の要件もずばり、29条の2の関係にあることがわかります。乙さんの出願明細書には、甲さんの発明aが書かれてしまっています。これでは甲さんの発明aは権利にならないのか。
 こういうことを考えて、「(その発明又は考案をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合におけるその発明又は考案を除く。)」と書いてあります。「その発明」aをした者、甲さんが、当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合、(まさにこの場合ですね)におけるその発明を除く、ですから、適用除外になり、出願Bを理由とした29条の2によっては、甲さんの発明は拒絶されません。

■ただし書き
 最後の要件が残りました。

ただし、当該特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願又は実用新案登録出願の出願人とか同一の者であるときは、この限りでない。

こういうのを、「ただし書き」といいます。それに対する前段は「本文」または「第一文」と呼ばれます。
 この要件、出願人が同じなら適用しないよ、と書いてあります。さっきの甲さんの例、例えば甲さんと、乙さんとが同じ会社Pの人で、どっちの出願人も会社Pだったら、発明者が同じとかいうことなく、甲さんの出願も「出願人同一」ということでBを理由にした29条の2では、拒絶されないことになります。

■一次試験的問題
 ここで一次の問題を一つ。「Bが補正され、Aのクレイムに書かれている内容が削除された場合でも、Bを理由にAは29条の2によって拒絶されるか。」
 規定をよくみて下さい。「…の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは…」とあります。補正があろうとなかろうと「最初の」ですから、上の問題は拒絶される、ということでマル、です。このように一次の問題は条文の一部を問うものが圧倒的多数です。条文さえ理解してしまえば一次合格は簡単です。

 つづいてもう一つ、一次の問題。「Aは発明イについて特許出願Xをしたが、その明細書には発明イのほか、発明ロも記載されていた。その後、Xの公開前にBが発明ロについて特許出願Yをし、その後、この特許出願YをAに譲渡した。このとき、特許出願Yは、特許出願Xを理由に29条の2の規定で拒絶される。」
 この問題もまた、規定に書かれている内容を聞いています。規定をよく読むと、「当該特許出願の時に」とあります。つまり、後願の出願時点で、出願人同一の要件を満足すべし、ということですから、後から譲渡するケースでは適用できません。
 つまり、この問題の解答も、マル、ということです。

 長くなってしまいましたので、次回また29条の2のご案内を続けることにして、今回は、ここまでに致しましょう。次回は、出願公開制度、審査請求制度と、この29条の2との関係を明らかにしてみたいと思います。

|

« ipod with Game? | トップページ | でんき予報 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: [弁理士試験]特許法案内(3):

« ipod with Game? | トップページ | でんき予報 »