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2006年9月23日 (土)

[弁理士試験]特許法案内(4)

前回は、29条の2の規定についてご案内致しました。しかし、この規定については趣旨をまだ明らかにしていません。「趣旨」というのは、どういう意味でこの規定が設けられたか、という背景とでもいうものです。その規定の精神を理解していないと、規定自体を読み違えることにもなりかねません。

▽ 今回は29条の2が設けられるまでの過程というのをみてみましょう。

吉藤: (えーっ、7万8千円?? う、売ろうかな…)

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■それは三位一体
 よく言われることですが、29条の2(みなし公知)は、審査請求制度と出願公開制度との三位一体で導入されたものです。

 いつぞやに説明したかと思いますが、そもそも特許出願については、すべてを出願の順に審査しておりました。当然に、「特許権が欲しいから出願したんでしょう」というリクツに基づくものです。とはいえ、でき上がった制度は固定していると、いつか綻びが現れるもののようです。

吉藤(特許法概説)をおもちの方は、「VI 特許審査手続」という章をごらん下さい。ここで吉藤氏は、審査主義と無審査主義との比較から話を起こしはじめ、わが国特許法で審査主義を採用している背景を述べた上で、「伝統的審査主義の修正」として、すべてを出願順に審査する審査主義を修正する必要性を指摘します。

慌てて追記しますが、伝統的には出願公開制度がありませんので、特許権が確定しない限りは、その技術内容が公開されないことになります。

伝統的な審査主義に修正を要するという、その遠因は、技術競争の激化、そして科学技術の急速な進歩にあります。これにより、特許審査にも、出願件数の増大と出願内容の複雑化・高度化という影響が現れはじめたのです。この影響はさらに、審査の遅れ、ひいては公開の遅れに繋がっていきます。

審査遅れ、公開遅れが怒ると、同一技術の重複研究、重複投資が発生し、国民経済的にも問題があるばかりか、出願内容の重複(重複出願)も招来され、これがさらに出願増につながるという悪循環を生み出します。

こうした背景から生まれたのが、出願公開制度と出願審査請求制度との2つです。

□出願公開制度
 出願公開というのは、特許出願の内容を、その審査段階の如何に関わらず※、出願から一定の期間が経過した時点で公開するという制度で、早期公開、などとも呼ばれる制度です。出願された内容を公開することで、重複研究や重複投資を防止する意味があります。
 むろん、内容を公開してしまうことで、出願人が被る不利益というのもありますので、こちらは別途、補償金請求権などで保護する必要が出てきました。

※「審査段階の如何に関わらず、」これが出願公開制度最大のキーワードです。

□審査請求制度
 出願とは別に、出願から一定の期間内に審査請求の手続をしたもののみについて審査を行う制度のことです。この制度は、出願人が出願をする目的や出願発明の経済的、及び技術的価値は出願間で相違するのだという経験的事実を前提とするものだ、と説明されます(吉藤)。

 既に説明しましたように、特許制度の下では、基本的にはダブルパテントでない限り、特許出願Aに係る発明αと、特許出願Bに係る発明βとは、別個に特許可能です。したがって、たとえ出願AがBに先行していたとして、しかも発明αの説明のために出願Aの明細書に記載した内容に、発明βが書いてあったとしても、出願Bに係る発明βは特許可能ということになってしまいます。そこで出願Aの出願人が、他者の出願Bによるβの権利化を阻止するためには、このβをも出願しておかねばならない。ということで、βについての権利が必要でなくてもβをクレイムとした出願をすることになってしまいます。こういう出願を「防衛出願」と呼んでいます。
 防衛出願が増えますと、やっぱり出願件数が減らないので、問題が解消しません。審査請求制度は、このβのような(Aの出願人にとって)価値のない出願を防止することにあるはずです。

□しかし、
 審査請求制度を導入したことで、審査されない出願というのが現れることになります。出願人がβについて審査を請求しないでいれば、やっぱりダブルパテントではなくなり、他者は、βについての権利化を図る余地ができてしまいます。すると、Aの出願人としては、βについても審査請求をしなければいけなくなる。これでは折角の出願公開や審査請求の制度が役に立ちません。

■29の2の趣旨
 こんなことを背景として29の2の規定の趣旨は、次のようになるかと思います。
(1)特許制度は、新規発明公開の代償として一定期間の独占権を付与するもの
   → 先願明細書に開示された発明を改めて開示した者に独占権を付与するのは、矛盾
である。

(2)防衛出願防止の観点から審査請求がされない出願について、一定の地位を与える必要がある。

(3)先願者がクレイムしなかったものは、広く公共に提供した公有財産とみるべき、後願者に権利を付与することは先願者の意思に反し、公有財産の私権化を意味し、公共の利益を害する。

(4)審査請求制度を入れたため、審査に係っていない先願よりも先に、後願を審査しなければならないことがある。このとき、ダブルパテントになるかどうかを判断するため、先願が権利になるかどうかの判断を待たなければ後願を処理できないとすれば、後願の処理が遅れて困る(先願の処理を待たずに後願を処理する必要性)。

□以上は、吉藤に記載のものに基本的に沿っています((2)は多少アレンジしています)。このうち(3)の趣旨は、ややこじつけに近いものがあるものの、その他については一応の理解をいただけるのではないかと思います。とくに(4)をごらん下さい。ご存知かどうかわかりませんが、クレイムは、出願後も書き換えることができます(補正という手続による)。このとき書き換え可能な範囲というものがあり、明細書に開示された範囲で補正可能、つまりこの範囲で書き換えが可能なわけです(昔はこれを要旨を変更しない範囲といい、現在では当初明細書に記載された範囲と言っている。運用上の取り扱いは多少違うのだが、その精神の基礎は同じことである)。そのため、明細書全体、という書き換えのネタの範囲に、先願の範囲らしいものを認めて、後願を処理してしまえ、という発想はごく自然になります。
 これが29条の2であり、この規定を古くは「拡大された先願の地位」という理由はこの辺りにあるのだと思われます。

■いかがでしょう。
 出願件数増大、出願内容の高度化 から
 出願公開、出願審査請求制度ができ、
 その欠点を補うために、補償金請求権や、29条の2の規定があるという関係がお分かり頂けたでしょうか。

 なお、今回はあまり規定の内容に分け入りませんでした。パテント・ペンディング中の手続についてはいずれまとめて記事にする予定だからです。

 次回は、今回ちょっと現れました、補正の制限について触れてみましょう。

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